ブロックチェーン技術

マルタ共和国におけるBlockcertsの社会実装と将来性

現在、LasTrustでインターンシップをしています、阿久津陽介(あくつようすけ)です。 筆者は現在アメリカの大学院でコンピュータサイエンスを学びつつ、Blockcertsを初め、ブロックチェーン証明書を用いた次世代教育型プラットフォーム「C-Lab」というプロジェクトに参加しています。(「C-Lab」について詳しくはこちらから。) ですので「個人の見えざる価値を可視化する」をビジョンに掲げ、同じくBlockcerts標準のブロックチェーン証明書の普及を行っているLasTrustにおいて、今後ともこのPJを通じて学んだことを、生かしていければと思っています。 今回はコロナウィルス感染症の影響でこのプロジェクトが一時中断してしまったことと同時に、先んじてブロックチェーン技術の社会実装が進んでいるマルタ共和国でインターンシップをしながら、実際にBlockcertsがマルタ共和国でどのように実装され、今後導入されていくかを紹介していきます。 (Blockcertsについてはこちらから。) なぜマルタ共和国なのか マルタ共和国は、英語圏であることや、アフリカやヨーロッパ、中東にとって中心的な位置に存在しており、様々なグローバルテクノロジーコミュニティが頻繁にサミットやカンファレンスを行っています。そのため世界中の企業や経営幹部にとっては、マルタでネットワークを構築してビジネスチャンスに繋がるなど、イノベーションハブとしての役割を担っており、最先端の技術に非常に友好的な国です。 2019年9月には、マルタ共和国政府は「ブロックチェーンアイランド」計画を発表し、以降、規制や税制面でブロックチェーン技術を積極的に導入しています。 事実、主要な仮想通貨取引所が拠点をおいたり、コンサルティング会社がブロックチェーンに関する調査や推進のために支社を設けています。 マルタ共和国のBlockcertsの導入状況 2020年10月時点で、Blockcertsの導入が推進されているPJはこちらです。 ・教育機関すべての卒業証明書、退学証明書 ・すべての教員免許証 ・すべての不動産賃貸契約書 2019年より開始された、マルタ共和国の教育機関すべてにおいて、生徒に卒業証明書をBlockcertsで発行するというPJは、2020年10月時点でほぼ完了していました。コロナウィルス感染症の影響で当初の予定より半年ほど早くこのマイルストーンを達成する見込みです。 さらにユニークな点は、生徒側のみならず、教員側にも教育免許証をブロックチェーン証明書で発行できるように実装が進んでいます。 マルタ共和国はEU加盟以降、英語環境、地中海気候という恵まれた立地から留学生がとても多い反面、教員の人員不足が問題視されています。 マルタ政府はブロックチェーン証明書を教員を中心に発行し、コロナ禍におけるジョブマッチングを円滑に進められるよう推進しています。 マルタ政府関係者は「ほぼすべての教育機関におけるブロックチェーン卒業証明書の発行を終了し、Institute for Tourism Studies(ITS); マルタ芸術科学技術大学(MCAST); 国立高等教育委員会(NCFHE); 教育雇用省(MEDE)自体が、ゴゾ島の4つの中学校の卒業生に退学証明書を発行しました。コロナウィルス感染症の拡大に伴い、スキルの可視化による雇用機会の創出を期待している。」と述べています。 この他にも、筆者がインターンシップを通じて経験した、不動産契約におけるブロックチェーン証明書の発行です。マルタ共和国における不動産契約においては、スマートコントラクトのデプロイ、及びオーナーへ向けたNFT(Non-fungible token)の設計、そしてブロックチェーン証明書の発行という一連の流れがすでに実装されつつあります。この内ブロックチェーン証明書に関しては実際に発行が進んでおり、2021年には全ての契約書がBlockcerts準拠のブロックチェーン証明書となる予定です。これを足がかりに、ブロックチェーンベースの企業登記システムの稼働を予定しています。 マルタ共和国におけるBlockcertsの今後の展望 マルタ共和国政府は2020年に、Blockcertsによるブロックチェーン証明書の発行を進めるLearning Machine社ととの新たな共同声明を発表しました。教育分野において卒業証明書のみならず、成績証明書の導入を進め、スキルの可視化によるEU圏の自由な学びや雇用機会に活かしていく考えです。 またBinanceの企業登記問題を始め、主に仮想通貨領域でこのような登記問題にBlockcetsが導入していくことをマルタの金融当局、MFSA(Malta Financial Services Authority)が発表しています。 以上、今回はマルタ共和国におけるBlockcerts導入状況と今後の展望に関する概観を解説しました。 LasTrustは「個人の見えざる価値を可視化する」をビジョンに掲げ、今回紹介させていただいたBlockcerts標準のブロックチェーン証明書発行SaaS「CloudCerts」の開発及び運営を行っています。先日『ASPIC IoT・AI・クラウドアワード2020 』にて、審査委員会賞を受賞し、今後日本での導入を進めてまいります。 参考 ・「ブロックチェーン島」マルタ、不動産賃借契約をブロックチェーンに登録 ・「ブロックチェーン島」掲げるマルタが仮想通貨・ブロックチェーン規制の戦略計画発表 ・Employers In Malta Will Soon Be Able To Verify Skills And Credentials Through Blockchain ・Blockcerts. A new approach to Credentials for Education 2020 (video)

ブロックチェーン証明書の標準規格「Blockcerts」の導入事例まとめ

  今回は、弊社の『CloudCerts』にも活用しているブロックチェーン証明書の標準規格『Blockcerts』について、世界各国の具体的な導入事例をまとめました。   Blockcertsについてはこちら。 世界的に見たBlockcertsのメリットについてはこちら。   ブロックチェーンベース卒業証明書   実際に、当社のCloudCertsから発行されたBlockcerts準拠のブロックチェーン証明書が以下です。 Cloudcertsについての詳細はこちら。 『Blockcerts』はマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボとLearning Machine社(現在はHyland社傘下)との共同開発で生まれ、2017年10月には、一部の学生向けにBlockcertsを利用したブロックチェーンベースの学位証明書が導入されました。 また、Blockcertsを利用したブロックチェーン卒業証明書では、『Blockcerts Wallet』と呼ばれるアプリケーションを利用しており、生徒や卒業生はiOSおよびAndroidで、自身の学位証明情報や卒業証書を簡単に管理できるようになりました。 これを皮切りに、以下の教育機関がBlockcertsによる卒業証明書の発行を開始しています。 ハーバード大学(アメリカ) ニューメキシコ州立大学(アメリカ) メルボルン大学(オーストラリア) マルタ大学(マルタ共和国) バーレーン大学(バーレーン) 香港科学技術大学(香港) バーミンガム大学(イギリス) その他にも、世界中の教育機関がBlockcertsによる学位証明の提供や実証実験を進めています。 日本でも、2018年に経済産業省・文部科学省が共同でBlockcertsの教育機関への利用を発表しており、ブロックチェーン学位証明書を提供するための取り組みを行っています。 (参考:大学学位証明、オンラインで取得 ブロックチェーン活用)   ブロックチェーンアイランド「マルタ共和国」   マルタ共和国は国家戦略として「ブロックチェーン国家」を掲げており、卒業証明書のみならず、日常のあらゆる分野にBlockcertsを活用しています。 以下はLeaning Machine社とマルタ共和国政府が、Blockcertsをを活用して検証可能にしたブロックチェーン証明書の例です。 教員免許証 運転免許証 不動産契約 結婚証明書 原産地証明書 出生証明・残高証明書 教員免許証と不動産契約については既に義務付けが決定している等、マルタ共和国政府は日常生活におけるブロックチェーンのさらなる普及を推進しています。 以下は実際にマルタ高等学校を卒業した際の成績書です。     医療資格や患者の診断書や記録     「Blockcerts」を利用したブロックチェーン証明書は、医療資格証明書にも活用されています。 米国を中心とした70の医療機関及び整骨院を代表する米国連邦医療委員会 (FSMB)は、医学教育資格をブロックチェーン上で検証することを可能にしました。 具体的には、医療資格に「Blockcerts」を利用したブロックチェーン資格証明書を発行することで、発行機関またはプラットフォームベンダーが機能を停止した場合でも、受信者が自分の記録を所有し、永久にそれらを共有および検証できるようにしています。 また、FSMBは医師のみでなく患者の診断書をシームレスに共有する取り組みも行っています。   コロナウイルスで浮き彫りになった「医療提供の機会」     米国は、COVID-19による深刻な医療従事者の不足を踏まえ、FSMBが取り組む「Blockcerts」を利用した医療資格提供を、米国本土全体に応用することを検討しています。 この背景には、特に人員不足が深刻だったニューヨーク州をはじめ、様々な州が一時的に高額な報酬で医療従事者を募集したものの、応募者の資格検証に複雑なプロセスを要することにより結果的に患者への対応に支障をきたしてしまった、という事情がありました。 同プロジェクトは、Blockcertsの開発コミュニティの中心であるHyland社がHyland Credentials(Blockcertsの新名称)を採用予定であり、安全かつ迅速な方法で医療従事者を現場に投入するプロセスを提供できるとしています。 その他にも、欧州や中東、アフリカではCOVID-19の影響を受け、電子投票やソーシャルディスタンスを保つための管理システムにブロックチェーンを活用することが公表されており、その一部に「Blockcerts」を活用することが検討されています。   国連主導のプロジェクト「C-Lab」     2020年より実証実験が開始されている、米国のプロジェクト「C-Lab」にもBlockcertsが活用されています。 「C-Lab」は、SDGs(持続可能な開発目標)の一つ、「質の高い教育をみんなに」を達成するために発足したコロラド州全体のプロジェクトです。 2023年にコロラド州での実証実験を終えた後、国連主導のもと世界中に社会実装されていく予定です。 「C-Lab」の概要についてはこちら。 そして、当社も日本唯一のデジタルクレデンシャル専業のスタートアップとして、Blockcerts準拠の証明書を日本の教育機関向けに提供しています。   参考 Electronic Documents Verification Program Digital Diploma debuts at MIT Malta Passes Trio of Bills as Part of ‘Blockchain Island’ Plan 大学学位証明、オンラインで取得 ブロックチェーン活用 Federation of State Medical Boards Blockcerts help get healthcare providers into the field safely and quickly Malta to Register All … Read More

ブロックチェーン技術を用いた次世代ファイルストレージサービス「Filecoin」

Peer to Peer(P2P)ネットワーク上で動作する分散ファイルシステム:IPFSを利用したFilecoin(ファイルコイン)について紹介します。 まずIPFS(InterPlanetary File System)とは、Protocol Labsにより開発が進められている、P2Pネットワーク上で動作するハイパーメディアプロトコルです。 現在のインターネットで主要なプロトコルはHTTP(Hyper Text Transfer Protocol)ですが、それを補完または置換するプロトコルとして注目を集めています。 IPFSについての詳細はこちら。 Filecoinの開発企業「Protocol Labs」   Protocol Labsは2014年に、IPFSとFilecoinを考案したJuan Benetによってシリコンバレーで創業されました。 Protocol Labsの主なプロジェクトとして、P2P通信や、P2P上の分散ファイルシステムやコンテンツデリバリーネットワークが挙げられます。中でも、IPFS・libp2p・Filecoinは画期的なプロジェクトとして、中国を中心に注目を集めています。   Filecoinとは   Filecoinは、P2Pネットワーク上で、ストレージを提供する個人や中小企業が報酬を得ることが出来る分散ネットワークです。 既存のIPFSのプロジェクトでは、ストレージを提供する側に経済インセンティブがないという課題があり、ピン止めされたコンテンツしか永続的に保存されませんでした。つまり、IPFSではアクセスされないファイルは消えてしまう可能性があるという課題を抱えていたのです。 この課題を解決するべく、インセンティブが設計されたネットワークがFilecoinです。   Filecoinの仕組み   Filecoinの仕組みとしては以下が挙げられます。 ユーザーはお金を払ってマイナー(ストレージの供給者)にファイルの保存を任せる。 ストレージマイナーは、Filecoinのブロックチェーンを参照し、ファイルが正しく保存されていることを証明する役割を担う。 Filecoinのブロックチェーンには、独自のブロックチェーンと暗号通貨(FIL)を送受信するための取引履歴、ストレージマイナーがファイルを正しく保存しているという証明を記録する。 FilecoinにはFILが存在し、ストレージマイナーは、ファイルを格納するとFILを報酬として獲得する。 特徴として、ファイルストレージを使う側としても、提供する側としても自由にFilecoinのネットワークに参加できることが挙げられます。 また、オープンなマーケットで取引されており、ユーザーはどのストレージにファイルを保存するか・ストレージの性能・利用するストレージの数を自由に選ぶことができます。   Filecoinのメリット   Filecoinのストレージを使用するユーザーのメリットとして下記が挙げられます。 オープンな市場のため価格が低くなる。 最適なストレージを提供しているマイナーを選択する事ができる。 プロバイダーごとに異なるAPIの実装が不要。 Filecoinのブロックチェーンにいつでもアクセスし、ファイルが正しく保存されているかを確認することができる。   一方、ストレージプロバイダーとしてのメリットは以下が挙げられます。 オープンなマーケットでストレージを販売することが可能 ファイルの保管により、多くのブロック報酬を受け取ることが出来る。 ネットワークへのアクセスは、Filecoinのプロトコルによって自動的に処理されるため、独自APIの設計・提供するサービスの宣伝が不要。   Filecoinの将来性     FILは上記のようにマイナーへの配布量は多く、最初の1年間でマイナーが8000万FILを得ます。 つまり最初の数年は極めてインフレーション率が高いコインとなっていますが、これは初期にストレージ提供者を増やすための設計であると考えられます。 よって、大規模な初期投資が必要で、参入障壁が非常に高かったクラウドストレージ市場に対し、オープンな市場を提供する、新しいシェアリング型プラットフォームとして今後普及が見込まれています。   参考 https://docs.filecoin.io/introduction/what-is-filecoin/ https://coinlist.co/assets/index/filecoin_index/Filecoin-Sale-Economics-e3f703f8cd5f644aecd7ae3860ce932064ce014dd60de115d67ff1e9047ffa8e.pdf https://filecoin.io/filecoin.pdf https://medium.com/swlh/ultimate-guide-to-filecoin-breaking-down-filecoin-whitepaper-economics-9212541a5895  

ブロックチェーンによる分散型信用スコア「Bloom」

  今回は、前回まとめたCOLENDIに比肩する規模の分散型信用スコアサービスを提供する「Bloom」についてまとめました。 COLENDI、分散型信用スコアリング機能についてはこちら。   Bloomとは     Bloomは2017年にアメリカで創業されました。 創業の目的として主に以下2点が挙げられています。 スコアリング情報などの個人情報の分散管理 世界中の人々へのグローバルな信用の提供 創業同年、信用情報管理事業において米国最大手のEquifaxがサイバー攻撃を受け、国民の半数以上に及ぶ1億5千万人の信用情報のデータが漏洩したという事件がありました。 この事件以降、アメリカの信用スコアリングモデルを提供するFICO、及びその算出に携わる信用調査機関の中央集権的な構造に対し疑問視する声が上がりました。 この構造への解決策として期待されたBloomは当時、ICO(暗号資産による資金調達方法)を実施し、$41,400,000(約45億円)を調達しています。 またCOLENDIと同じく、世界の約30億人が銀行口座を持つことができないという問題を解決するために、ボーダレスに通用する信用スコアの提供を目指しています。   Bloomのサービス   Bloomが提供するサービスはBloomID・BloomIQ・BloomScoreの3つです。 BloomIDは世界中で利用可能な分散型IDを提供するサービスです。また、今後の構想として、BloomIQでユーザーの取引履歴を蓄積し、その情報を基にスコアリングサービスであるBloomScoreを提供していくことが発表されています。   BloomIDをiOS上で提供するBloomAppsは、2019年2月にUS AppStoreのUtilityカテゴリーでTOP10入りを果たし、現在では25万人以上のBloomIDを発行しています。 BloomAppsの特徴として、ストレージ方法にブロックチェーンとの親和性が高い分散型プロトコル・IPFSを採用していることが挙げられます。(IPFSについてはこちら。) よって、金融機関へのデータ提供による個人融資のみならず、Peer to Peer によるレンディングサービスも提供可能になっています。   これらのサービス以外にも、銀行口座に紐付ける必要がなく、世界中誰でも発行可能なクレジットカード「BloomCard」の発行が予定されています。 このカードは無担保消費者への信用を可能にすることで、発展途上国でBloomScoreを浸透させることを目的としています。 外国為替手数料や海外送金手数料を省くため、ETHを支払手段とする予定です。   スコアリングの算出方法   BloomScoreの算出方法はwhitepaperにて公開されています。 フェーズが以下の3つに分かれています。 フェーズ1 支払い総額と未払金総額 最長の返済履歴 平均月間支払額 過去のローンの数 すべてのレポート情報横断での支払総額 フェーズ2 ステークしたPeerの平均スコアが数式の変数として追加。 フェーズ3 自身の金融取引だけでなく、過去の履歴から、そのユーザーとの金融取引に積極的なステークホルダー(Bloomユーザー)の取引実績値に基づいたスコアを算出。   また今後のロードマップとして、Bloom Token(BLT)を発行し、さらなるクレジットスコアへの機能強化を図っていくことが予定されています。   Verifiable Credentialの発行開始   Bloomは、2020年のコロナウィルス感染症によるパンデミックへの対応の一環として、検証済み免疫証明書(Verifiable Immunity Credentials)の発行を開始しました。 この証明書はコロナウィルスの免疫を獲得していることを証明可能であり、BloomIDに紐づく形になっています。 またユーザーの医療情報や診断結果はプライバシーとして保護されている設計となっています。 かつてない失業率、医療現場などの人員不足が起こっている現在、この危機への対応策として世界的に注目を集めています。   参考 Major Milestone: 250,000+ BloomIDs Created↩ https://twitter.com/Bloom/status/1104121421628755968↩ https://bloom.co/whitepaper.pdf https://bloom.co/ Helping Fight COVID-19 with Verifiable Immunity Credentials

ブロックチェーンで分散型信用スコアリング「COLENDI」

  今回はブロックチェーンを活用した信用スコアリングのプロジェクトの一つ、『COLENDI』についてまとめました。   COLENDI とは   『COLENDI』は、2016年2月にスイスのツーク州で設立されましたが、2019年2月に開発拠点の1つであるトルコでプロダクトをローンチした為に、現在トルコと中国が開発拠点となっています。 COLENDIは「世界中のすべての人にフィナンシャルスコアとアイデンティティを与え、彼らに安心と安全を保証する」をビジョンに掲げ、マイクロクレジットや信用スコアリングのプラットフォームとしてプロジェクトを進めています。 プロダクトの特徴として、ブロックチェーンを利用していることが挙げられます。顧客のデータを保護しながら、開発された信用スコアリングを基にユーザーに自己主権とデジタルIDを提供しています。   信用スコアリングの問題点     既存の信用スコアリング、及びその際に使用される個人情報の管理については、 特定の組織が中央集権的に管理(例:マイナンバー制度) スコアリングアルゴリズムの違い 特定の地域や国の中でのみ有効な証明 といった課題が存在します。以下、各項目ごとに詳しく説明します。 1.中央集権的な管理の場合、サイバー攻撃などによる情報漏洩のリスクがあります。 例えば、2017年に信用情報管理事業において米国最大手のEquifaxがサイバー攻撃を受け、国民の半数以上に及ぶ1億5千万人の信用情報のデータが漏洩しました。 このように、特定の機関へ情報管理を委託することは、プライバシー保護が十分に行き届いてないことを意味します。 2. 消費者の信用スコアリングについても、Equifaxや芝麻信用※のような信用情報機関が、どういったプロセスで格付けや債券のスコアリングを行っているかが不透明な部分が多いと言われています。 また、企業毎に、提供する信用スコアのアルゴリズムは異なっており、性別の変更のみでスコアに差異が出るような信用スコアが存在していることも課題です。 ※芝麻信用:中国モバイル決済においてトップシェアにある『Alipay(アリペイ)』のアプリに搭載されている機能の一つ 3. 世界銀行の統計データによると、世界には銀行口座を持っていない人々が約20億人存在すると言われています。よって、クレジットカード作成も不可能であり、自らの信用情報を証明することが困難であるため、ローンなどの様々な金融機会にアクセスすることができません。 また、現在の発展途上国において、ローンを受けている人は全体の10%にも満たないという現状があります。 これは金融業者が借り手を評価することが困難であることが原因であり、高利子貸付などの違法なマーケットの拡大につながってしまいます。   分散信用スコアリングとは     上記の課題を解決するべく開発されたのが、分散信用スコアリングです。 分散信用スコアリング(decentralized credit scoring)は既存のスコアリングと異なり、分散的に個人情報を取得・管理し、算出する信用スコアリング技術です。 つまり、企業にデータを預けずに、ブロックチェーン上で個人情報を管理するため、データ流出・漏洩のリスクを回避することができます。 また、銀行口座やクレジットカードを持たない人でも、債務履歴や返済率を元に信用情報を獲得可能であり、既存の金融機関にアクセスできない人々に資金調達の機会を提供できます。 さらに、オープンソースコード上のスマートコントラクトを見れば格付けプロセスを把握することができるため、透明性を保証できます。 Colendiは、この分散型スコアリングの機能を持つプロダクトを提供しており、取引履歴やスマートフォン、ソーシャルメディアなどから収集された情報により信用スコアを算出します。   信用スコアの指標とデータ取得方法     COLENDIの信用スコアでは、1000以上の指標を元にしています。 主な例として下記が挙げられます。 Smartphone data(スマートフォンデータ) Social media data(ソーシャルメディアのデータ) Transaction data(取引データ) Blockchain credit history data(ブロックチェーン上のクレジットヒストリーデータ) Personal data(パーソナルデータ) 更に通信の決済履歴や購買データも指標に入れるため、通信会社や大手のリテールチェーンといった企業とのパートナーシップを進めています。 また、算出する信用スコアに、機械学習を活用したアルゴリズムを使用しており、特許取得済となっています。     COLENDIでは、データ提供の対価として独自のトークンを支払います。これにより、トークンによって自律的にインセンティブ設計を行うシステムの構築を実現しています。 また、ブロックチェーンを利用することで、データの編集や閲覧が不可能なシステムを構築し、ハッシュ化されたデータの署名をチェーンに記録し、改ざん不可能な形式で保存することができます。   enigmaとCOLENDIとのパートナーシップ   ユーザーのプライバシーの強化のため、COLENDIはenigmaとパートナーシップを結んでいます。 ブロックチェーン上に格納されているデータは世界中の人々が参照できるため、ユーザーの個人情報をノードが閲覧できないようにする必要があります。 enigmaはトランザクションデータを分散的に秘匿化する技術を持っています。具体的には、イーサリアム(Ethereum)ブロックチェーンのスマートコントラクトを用いつつ、ユーザーがCOLENDIのアプリケーションにログインすると、自分のIDのみがネットワーク上の他のユーザーと共有され、データ全体を非公開にすることができます。 そして、IDパラメータへのアクセスは、ユーザー所有のスマートフォンと、登録時にユーザーに与えられた秘密鍵によってのみ可能となります。   COLENDIと分散型信用スコアリングの将来性 デジタル社会では、個人を取り巻くデータが増え続けるのと同時に、常にデータ漏洩の危険が存在しています。よって、保護されたデータを使用して自身の信用度をスコアリングできるサービスは、今後さらにニーズが増加していくと考えられます。 加えて、個人情報を提供せずとも、分散信用スコアリングによって得た評価により、サービスを受けることも可能になります。つまりユーザーや企業が、個人情報を保護するセキュリティに膨大な労力と費用を費やす必要がなくなるのです。 また、2019年6月に発表された、送金コストのWorld Bankの報告によると、世界の送金平均コストは6.84%でした。一方、南アフリカをはじめとした、低所得国や中所得国からの送金コストは、依然として20%をやや上回っています。 そこで、COLENDIは、上記に述べた銀行口座の問題に加え、国境を越えた支払いコストの節約を目標に掲げています。マッキンゼーの調査レポートによると、COLENDI他、リップルやリブラアソシエーションが取り組んでいる、ブロックチェーンプロジェクトの効果は年間最大40億ドルの節約に値するとしています。 このように、世界的にボーダレスな分散型信用スコアは、今後さらに「国」という枠を超えてビジネス及び生活に浸透していくと考えられます。   参考 Why does Colendi use blockchain technology? Next Generation Banking Shaped by Fintech 3.0 マッキンゼー当局による世界銀行調査報告書 https://interbit.io https://www.slideshare.net/NOAHAdvisors/colendi-noah19-berlin

blockcertsとは?

Blockcerts(ブロックサーツ)とは?ブロックチェーン証明書の標準規格とデジタル証明書のDXについて

今回は、ブロックチェーン証明書の世界標準規格「Blockcerts(ブロックサーツ)」とはどのような仕組みになっているのか、開発の背景も含め分かりやすくご説明します。 Blockcertsとは?その概要について Blockcertsは、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究機関Media LabとLearning Machine社が共同開発したブロックチェーン証明書の標準規格です。 BlockcertsのGithubはこちら また、その規格を満たすブロックチェーン証明書を発行するためのSDK(開発ツール)を含んだオープンソースのプラットフォームでもあります。 ブロックチェーン証明書発行にオープンスタンダード規格が必要な理由 ブロックチェーンの基本的な機能を利用すれば、ブロックチェーン証明書を発行することは比較的容易です。しかし、第三者機関が証明書を検証する手間を省き、利便性を増すためには、 その証明書が改ざんされていないか どのようなコードによって発行されたのか どのブロックチェーン公開鍵(ブロックチェーンID)と紐付いているのか といった一連のプロセスが透明化され、誰でもそのシステム自体の挙動を検証できる仕組みが必要です。 これがオープン規格を採用しなければならない理由であり、トラストレスな証明書の検証を実現するファクターになります。実際にBlockcertsのライブラリ・ツール・モバイルアプリはGithubで公開されており、誰でもその中身を検証及び利用可能です。当社も発行システムのコアの部分はBlockcertsを採用しています。 Blockcerts準拠で発行したブロックチェーン証明書のサンプル 実際に、当社CloudCertsから発行されたBlockcerts準拠のブロックチェーン証明書が以下です。「Verify again」をクリックするとブロックチェーンへの検証機能が作動し、証明書の内容が正しいか検証できます。 「ISSUE DATE」= 証明書発行日 「ISSUER」 = 証明書発行者 「Issuer’s public key」= 証明書発行者のIDです。 「Transaction ID」= ブロックチェーンに書き込まれているトランザクションのIDです。 「Download Record in JSON format」= JSONというブロックチェーン証明書の原本ファイルをダウンロードするためのリンクです。 「Verify another Record」= blockcerts規格の他の証明書を検証する画面へ遷移します。 紙の証明書が抱える課題 ブロックチェーン証明書でできることを説明する前に、まず紙の証明書が抱える問題点について言及したいと思います。現在、各種証明書や資格のほとんどはアナログで運用されています。各種証明書の例として、 卒業証明書や学位証明書 学割証 住民票 社員証、学生証 契約書 不動産所有権 などが挙げられます。 特殊なインクと紙を使用する新幹線の学割証は発行手続きの手間がかかり、教育機関、学生側の利便性に改善の余地がある といった事例があります。 これらの本質的な問題は、「その証明書が正しいことを、証明書の発行元に確認しなければならない」という点であり、これは単にPDF等でデジタル化しても解決する問題ではありませんでした。 ブロックチェーン証明書の機能:「証明」のデジタル化 しかし、ブロックチェーン技術の登場により、これらの「証明」にイノベーションが起きました。 ブロックチェーン技術の特徴は、ブロックに記録されたトランザクションを改ざんできない点にあります。この機能によってデータを詐称することが困難になるため、発行元(上記例では教育機関)へ問い合わせることなく、その証明書の内容が正しいことを検証できるようになります。 今までアナログの証明書によって担保していた「任意の事実」をデジタル化し、ブロックチェーンというオープンなネットワークで電磁的記録として扱えるようになったという点において、Blockcertsは画期的な仕組みです。 既にMIT(マサチューセッツ工科大学)、ハーバード大学、バーミンガム大学、バーレーン大学など、世界中の教育機関がBlockcerts準拠の証明書の発行を開始しています。 ブロックチェーン証明書の発行プロセスについて 次に、ブロックチェーン証明書がどのようなプロセスを経て発行されるのか、概要を説明します。①証明書に記載したい受取人の情報をCSVファイル等で作成し、ブロックチェーン証明書発行事業者に送信②発行事業者は事業者ごとの秘密鍵を用いて署名を作成し、受取人の情報を含んだブロックチェーン証明書(jsonファイル)を作成する③②で作成したブロックチェーン証明書をハッシュ化し、Bitcoin・Ethereum等のパブリックチェーンに記録する④②をBlockcertsのアプリで格納し、③で記録したチェーン上のハッシュ値と照合することで証明書の真正性を立証できる⑤アプリの機能で外部への共有も可能。ブロックチェーン証明書(jsonファイル)を受け取った企業も、リンクをクリックするだけで証明書の内容の真正性をチェックできる。(jsonファイルを任意のサーバでホスティングした場合) ブロックチェーン証明書がもたらす未来 このように、ブロックチェーン証明書は紙の証明書をデジタル化し、かつ検証機能をもたせることが可能ですが、もう一歩踏み込んだDXとしての利用法、ビジョンを描くこともできます。 今までクローズドに管理されていた学位や資格を、ブロックチェーン証明書・ブロックチェーン資格証に置き換えることで、スマホでそれらを格納・管理・共有し、社会資本あるいは一種の資産や通貨のように扱うことが可能になります。 「任意の事実」をデジタル化できるため、学位や資格だけでなく、例えば「Youtubeのチャンネル登録者数が1万人以上」「twitterのフォロワーが10万人以上」といったカジュアルな実績もスマホで管理したり、自身のスペックとして外部にアピールしたりするといった、まったく新しい形での社会資本形成が可能になると当社は考えています。

ブロックチェーン証明書(Blockcerts準拠)と Open Badgesの違い

今回は、ブロックチェーン証明書(Blockcertsに準拠)と Open Badgesの違いについてまとめました。 Open Badges とは Open Badgesは、2011年に、特定のスキルの達成度をデジタルおよび視覚的に伝えるために誕生したデジタルバッジ規格です。Open Badgesが開発したデジタルバッジは、デジタル画像とホストされたデータセットを通じて単一の成果を伝えられるように設計されています。最初はMozilla Foundationが主導していたOpen Badges規格が、IMS Global Learning Consortiumによって維持されたことで、プラットフォーム間の相互運用性が確保されています。 このデジタルバッジは、成果の達成が細分化され、より大きな教育的または専門的な目標への新しい道を拓くことを目的としています。 近年、eラーニングやMOOCsなど、携帯やPCで国内外や組織を問わず自由に学ぶ環境が整備されてきています。加えて、時代の変化の速さや労働寿命が伸びることが予想されている今後において、デジタルバッジは細分化されたカリキュラムに応じた資格や修了証をあらゆる場面で共有することを可能にします。 open badgesのデジタルバッジとマイクロクレデンシャル このように、デジタルバッジは小規模なクレデンシャル、つまり「マイクロクレデンシャル」に最適です。マイクロクレデンシャルとは、高いレベルの検証が必要な状況(国境でのパスポートの検証など)には不十分ですが、個人の達成のマイルストーンにおいて効果的に報酬を与えることができ、他の達成と組み合わせることで、最終的に大規模で高額な資格の取得において重要な要素になるとされています。 デジタルマイクロクレデンシャル化により、すべての資格情報などがデジタル化されることを、多くの教育プロバイダーや雇用主が期待していました。しかしながら、デジタルバッジのセキュリティ制限により、適切な使用例の範囲は制限されています。 たとえば、バッジデータとバッジ表示は別々にホストされるため、表示が簡単に改ざんされる可能性があります。加えて受信者は自分のバッジに接続された暗号化キーを制御できない仕組みになっており、実際には技術的な所有権はありません。 このように、Open Badgesによって提供されるセキュリティレベルは、限定的な場面では適しています。そのため、マイクロクレデンシャルは、より大きな成果や学習者のキャリアパスなどの道に沿った、小さなステップを証明してくれるものとして使い分けがされています。 ブロックチェーン証明書とは Blockcertsは、MIT Media Labによるプロジェクトの一環として2015年に開発が始まりました。Blockcertsについてはこちら。 OpenBadgesとの主な違いは、デジタル記録の検証のためのグローバルな公証人として、「ブロックチェーン」の力を活用することでした。 2016年に正式にリリースされたすべてのリファレンスライブラリはMITオープンソースライセンスの下で公開されたため、Blockcertの発行・受信・および検証用の独自のアプリケーションを構築したい人は、コードを自由に使用できます。弊社もBlockcertsに準拠した証明書サービス「CloudCerts」を提供しています。 そして、上述のオープンソースライブラリには、世界中のあらゆる機関が発行したすべてのBlockcertを検証するUniversal Verifierが含まれています。加えて、Blockcertsの公式ホームページにもUniversal Verifierがあり、誰でも使用できます。つまり、Blockcertsにより発行された証明書は世界中の誰でも検証することができるのです。 つまり、Blockcertsに準拠したブロックチェーン証明書は、 改ざん不可能 発行者と受信者の所有権 柔軟なフォームファクタ 検証付きのオンラインおよびオフライン共有 独立した検証 を提供しており、バッジとは根本的に異なるものです。 Open Badges と ブロックチェーン証明書の比較 *Open Badges 2.0標準に準拠している場合、ベンダーに依存しない方法で検証可 OpenBadgesは、個人の達成のマイルストーンに効果的に報酬を与えるため、認定資格などのマイクロクレデンシャルを、LinkedinなどのSNSで共有するなどの活用例があります。 一方で、Blockcertsは高いセキュリティレベルでの検証が可能であることから、MITなどの大学で卒業証明書として発行されるといった事例があります。

スタディログ・ライフログの集積は、ユーザの信頼情報たりえるか。分散型クレデンシャルの「キャズム」問題

今回は、分散型クレデンシャルの課題として挙げられる「ログのデータ集積がユーザーへの信用に繋がるか」、「C-Lab」プロジェクトの具体的なスケジュール・予算についてまとめました。 C-Labの今後のスケジュールと予算 分散型クレデンシャルの「キャズム」問題に触れる前に、アメリカの先行事例「C-Lab」の進捗状況と今後のスケジュールについてまとめます。 「C-Lab」は、2020年1月に行われたプロジェクトのキックオフミーティングで具体的な予算とスケジュールを発表しました。 2020年7月時点ではフェーズ2に移っており、既にコロラド州の3つの高等学校と3企業を対象とした実証実験が始まっています。 フェーズが進むにつれて、参加企業や学習者の規模が大きくなり、機械学習によるデータ運用が行われ、学びのアドバイスやキャリアアドバイスを受けることができます。 参加団体や企業については前回記事でまとめましたが、フェーズ4の段階で100以上の教育機関や企業が実証実験の対象となります。 2023年にコロラド州での実証実験を終えた後、国連主導の下「21世紀の新しい教育プラットフォーム」として様々な国や地域への定着を図り、2030年のSDGs目標達成を目指しています。 「C-Lab」発足当時の予算は3年間で約8.5億円とされていましたが、発足直後に非営利団体の更なる支援により、約12億円に引き上げられています。 現在も予算を上回る支援金による援助を受けており、計画の前倒しや更なるプロジェクトの拡大も考えられています。 ログのデータ集積がユーザーの信用に繋がるか 分散型クレデンシャルのエコシステムである「C-Lab」プロジェクトがなぜここまでの速さで展開しているか、疑問に思うかもしれません。 そこで日本でもよく取り上げられる「ユーザーの学習履歴やボランティア等のデータ集積で、ユーザー自身の信頼度を測れるか」という議題について、「C-Lab」のプロジェクトキックオフ前の議論の内容から紐解いてみます。 この議題に関して主に2つの観点から議論が行われました。 ・アルゴリズムのバイアス問題 ・企業に向けたユーザーの信用の測定 アルゴリズムバイアス問題 まず、アルゴリズムのバイアスに関してですが、「C-Lab」では国連主導の下に行われている実証実験ということもあり、ユーザーの評価軸は透明かつ具体的である必要があります。 例えば、既存の信用スコアサービスを提供する企業のアルゴリズムにはバイアスが存在していることが指摘されています。具体的には、登録情報の性別を変更するだけで点数の上下があったことが指摘されており、提供側が修正するという事例が多くあります。 世界的に見ても、アルゴリズムバイアスが存在すると指摘される金融サービスは非常に多いため、スタディログの集積及びユーザーの「学び」を資産化する際には、アルゴリズムがフェアであることに重点が置かれています。 具体的には、EUのGDPR(一般データ保護規則)22条「データ主体に対して法的効果(または同様の重大な影響)を及ぼす場合の、完全な機械化、自動化されたプロファイリングのみによる決定の禁止」や、アメリカで制定されたECOA(信用機会均等法)「性別、年齢や既婚・未婚といった婚姻状況、人種や肌の色、宗教、出身国といった社会的帰属によるいかなる差別の禁止」に準じた形で開発を進めています。 ユーザーの信用の測定 次に企業に向けたユーザーの信用の測定についてです。より良い教育インフラシステムを成立させるためには、出資者である参加企業の採用コストを減らし、適切な人材とのマッチングを可能にすることが必要です。 その為には、出資して得たユーザーのデータが、既存の仕組みから得たデータよりも信用足りうることを保証しなくてはなりません。 しかしながらこの問題は、先駆けてオープンプロジェクトとして取り組んでいる「T3 innovation Network」が既に効果測定済みであったことから解消されつつあります。 既存の採用の仕組みでは、スキルと経験の価値は伝える人の能力に依存していました。しかし、「T3 innovation Network」はAIやブロックチェーンを駆使し、400以上の企業や教育機関のデータをあらゆる業界の雇用主が理解できるように提供しています。これにより、参加企業の大幅な採用コストカット・ミスマッチの減少にも成功しており、さらに米国各州政府が官民標準協働(SC)に積極的に関与していったことで大規模なプロジェクトに発展しました。 「T3 innovation Network」が「C-Lab」に参加し、SSI規格とテクノロジーの技術的な詳細を提供することで、データへの信用性の担保は確実になったといえます。(2020年6月公開のホワイトペーパーより) 参考 C-Lab aims to restructure higher ed using blockchain tech The T3 Innovation Network

Verifiable Credentials発行プラットフォームまとめ【2020年版】

  今回は、W3Cが提唱しているVerifiable Credentialsに則ったプラットフォームを紹介します。 W3C、及びVerifiable Credentialsについては過去の記事にまとめています。こちら → https://lastrust.io/2020/05/25/whatisverifiable-credentials/ また、今回はW3Cの標準仕様に則っていると確認が取れる事例のみに絞ってご紹介させていただきます。 ・W3Cの標準仕様はこちらVerifiable Credentials Data Model 1.0Decentralized Identifiers (DIDs) v1.0 Verifiable Credential Platform 今回紹介するプラットフォームは以下になります。 ・ERC-725、ERC-735 ・Hyperledger Indy ・Microsoft Build 2020 ERC-725、ERC-735 ERC(Ethereum Improvement Proposals)ですが、Ethereumブロックチェーンのセカンドレイヤーにあたるサービスのうち、クレデンシャル(アイデンティティ情報)に用いられています。 その中で現状、最も注目されているIdentity規格と言えるのがこのERC725です。 ERC-725は、ERC-20トークンの標準化やweb3.js提唱者の一人として知られ、エンジニアでもあるFabian Vogelsteller氏が2017年に提案しました。 EIPs(Ethereum Improvement Proposals)はオープンなドキュメントを持っており、誰でも改善を提案することができます。もともとの課題である、プライバシー保護、取引の速さについての議論はかなり活発になっています。(イーサリアム3.0とも呼ばれているようです。) 同様の例としてBitcoinのコミュニティ、BIP(Bitcoin Improvement Proposals)が挙げられます。 イーサリアムプラットフォームは、分散アプリケーションを記述する言語の1つである『Solidity』のインターフェースを定義していることが特徴で、 この仕様に基づき、Ethereumブロックチェーン上でクレデンシャルを流通させる仕組みを提供します。 詳細はここでは割愛しますが、 ERC725がIDのインターフェイスを取り扱い(スマートコントラクトをデプロイ)、ERC735がクレデンシャルの構造や取り扱いを定義するという点で役割が異なります。 ERC-735は直接DIDとして利用せず、W3CのDID形式でEthereumアドレスを包み込む(wrapping)して記載する方法も提案されています。非常にシンプルであるが故、プライバシー保護が今後の課題といえます。 イーサリアム上での議論や提案の詳しい内容は、バージョンのアップデートも含めた内容をまとめて公開します。 Origin Protocolとは?   「Origin Protocol」はERCの代表的なプロジェクトです。日本でもBlockBase社が提携し、ERC-725の開発及びシェアリングエコノミーへの利用を目指しています。 主にAirbnbやUBERのようなシェアリングエコノミーで利用が検討されています。特徴として、アカウントに電話番号・Eメール・Airbnb・Facebook・Twitter・Googleといった複数のアカウントを紐づけることができ、実在する人物かどうかの証明だけでなく、紐付けアカウントの活動履歴から個人の信用が可視化されるプラットフォームとなっています。 Hyperledger Indy Hyperledger Indyとは、分散型ID(DID)の提供を想定して開発されたパーミッション制(チェーンへのアクセスに許可が必要)のブロックチェーンです。The Linux Foundationが主催しており、Hyperledger Fabricなどの様々なプラットフォームを提供しています。 Hyperledger Indyによって提供されるツールやライブラリ(Indy-SDK)を用いることで、業界などに限定されない、相互運用可能な分散型身分証明を開発することができます。現在、相互運用性の実験を行うプロジェクト(Project Aries)が存在しています。 運転免許証やパスポート、保険証などに活用することで、グローバルアイデンティティを実現できるプラットフォームとして注目を浴びています。 下記のリンクにて、IBMがデモを公開しています。 https://www.youtube.com/watch?v=cz-6BldajiA&feature=youtu.be Hyperledger の相互運用性についてですが、プロジェクトが同時並行で動くためにプロジェクト単位で成熟度が異なること・プロトコルがLedgerと密接に紐づいていること、といった課題への解決策が期待されています。 フィンランドのプロジェクト「Project Mercury」とは  フィンランドでは、国内のさらなる経済発展や国際化に向けた取り組みの一環として、 Project Mercuryというプロジェクトを開始しています。 このプロジェクトは、海外の起業家に「起業しやすい環境を提供する」という目的のもと、金融機関や税務署、法務局などが起業手続きの簡素化、デジタル化を推進するべく2018年5月にスタートしました。 このプロジェクトの構築にはHyperledger Indyが活用されています。企業に対しアイデンティティを付与し、企業プロセスをすべてデジタル化及び分散化させることで、会社情報が保証され、いつでも共有できる仕組みです。 Microsoft Build 2020 Microsoftは、2018年にDIDに関する自社のホワイトペーパーを公開して以来、DIDの開発に積極的に携わってきた経緯があります。 実証例こそありませんが、Windowsのエンタープライズ向けのシェアを考えると、かなり注目度の高い取り組みといえます。 今回取り上げるのは、2020年5月に発表された、Azureを用いた分散型の学生証アプリ(Student ID)です。 HPでは、上記の大学「Contoso University」の学生の証明プロセスを紹介しています。 ・大学側が発行したVerifiable Credentialsをユーザーが登録する・書店などで学割を使いたい場合は、証明書(学生証)を提示する・スマホには別の証明書も登録できるといった使い方があります。 アプリは Microsoftが開発・提供している「Microsoft Authenticator」が採用されています。 証明書の検証には、ブロックチェーン技術を用いた分散型の公開鍵基盤(Decentralized Public Key Infrastructure)の仕組みを利用しており、登録された公開鍵を照合します。この仕組みは 「W3C」(World Wide Web Consortium)の策定した標準に基づいて開発されています。 なお、ホームページにはデモが公開されています。 このDIDシステムはBitcoinのセカンドレイヤーでの実装であり、Microsoft社が開発したION(Identity Overlay Network)はソースコードも公開されています。ソースコードはこちら→ https://github.com/decentralized-identity/ion/ 結論 上記のプラットフォームは非常に新しく、改良速度がとても速いです。どのOSSのプロジェクトを使うかは、最新の仕様を確認して考える必要があります。 信用度の高い学術的な情報としては、2018年のPeer review論文「 Blockchain and the Future of … Read More

ブロックチェーン証明書発行OSS「Blockcerts」とLearning Machine社の最新レポート

LasTrust(以下ラスト)は、MITのMedia LabとLearning Machine社が共同開発したOSS(オープンソースソフトウェア)である「Blockcerts(ブロックサーツ)」を活用し、ブロックチェーン証明書発行システム「CloudCerts®」を開発しました。  今回の記事では、Blockcertsがどういった規格であるか、そして米Hyland社への吸収合併を発表した、開発元であるLearning Machine社の最新の動向についてまとめます。 この記事は、同社の開発担当上級副社長ナタリー・スモレンスキー氏が来日した際の会食、同社のエンジニアチームとのオンラインミーティングで伺った内容をもとに執筆しました。 Blockcertsとは? BlockcertsはLearning Machine社とMITのMedia Labで2016年に共同開発が行われ、ブロックチェーン証明書発行のコアとなるOSS(MITライセンスで商用利用も可)が提供されています。 https://github.com/blockchain-certificates ブロックチェーン証明書発行事業者は、このオープンソースを軸に、様々な仕様のブロックチェーン証明書発行システムを構築できます。 ラストもこのOSSを使用し、「CloudCerts®」を独自に開発しました。 Blockcertsに関する詳しい記事はこちらを御覧ください。     OSSを活用する理由 ブロックチェーン技術を利用したあらゆるサービスは、非中央集権的なガバナンスを実現するため、その内部動作の透明性を担保しています。 ブロックチェーン証明書も同様ですが、加えて様々なユーザー間で送受信が可能なプラットフォームが必要になります。 そういった背景を鑑み、ラストは現在のブロックチェーン証明書発行のデファクトスタンダードであるBlockcertsを発行システムのコアに採用しました。 そして、マーケットのニーズに応じたカスタマイズを独自に行い、「CloudCerts」を開発。デジタルIDの取り扱いの新規性を軸に特許出願を行いました。   Learning Machine社とW3C、IMS Globalの関係性について 2020年1月、日本IMS協会「デジタルバッジ関連標準国内導入検討部会」が開催した「新春デジタルクレデンシャル最新動向セミナー」に、ゲストとしてLearning Machine社(以下LM社)から開発担当上級副社長ナタリー・スモレンスキー氏が招かれ、講演が行われました。 デジタルバッジ関連標準国内導入検討部会のメンバーであるラストも参加し、 食事会にてナタリー氏にLM社とW3C、IMS Globalとの関係性について質問しました。 ラストがLM社の動向に興味を持つ理由は2つあります。 第一に、Blockcertsが、W3Cが推進しているWeb3.0対応規格である「Verifiable Credential(ベリファイアブル・クレデンシャル)」に準拠する可能性が高いこと。 (Verifiable Credentialとは何か、別の記事で特集しますので、Web3.0におけるデジタルクレデンシャルについて興味のある方はぜひ御覧ください。) 第二に、Blockcertsが開かれた開発コミュニティでありながらも、依然としてLM社が中心となって開発が行われているため、Blockcertsをコアシステムに採用しているラストとしては、Blockcertsがどの方向に進むのか、いち早く把握しておく必要があるためです。 Blockcertsは当初、OpenBadgesへの準拠を進めていた Blockcertsコミュニティでは、2つの異なる規格との互換性が議論されていました。 IMS Globalが推進する「OpenBadges」と、W3Cが推進する「Verifiable Credential」です。 Blockcertsの初期開発チームから参加しているKim Hamilton Duffy氏は、W3Cのデジタルクレデンシャルを推進するコミュニティ「Credentials Community Group」で共同議長を務める傍ら、IMS Globalとも積極的にデジタルクレデンシャルの在り方を議論していました。 IMS Globalは10年以上の歴史を持つデジタルバッジの標準規格、OpenBadgesを推進しています。 OpenBadges自体はブロックチェーンに関連するものではないため、Blockcertsは当初、本規格のブロックチェーン拡張としての位置づけを目指し、改良を重ねていました。 (実際にBlockcertsのソースコードにはOpenBadgesに関係する箇所が見受けられる)しかし、はっきりとした要因は不明ですがOpenBadgesへの対応は見送りとなります。 (当社の研究では、BlockcertsがOpenBadgesに準拠するためにはOpenBadges側のバリデータの仕様を更新する必要があり、そこが障壁になったのではないか、と考えています) BlockcertsはVerifiable Credential準拠へ その後、BlockcertsはW3Cが制定を進めるWeb3.0の自己主権型個人情報プロトコル「Verifiable Credential」への準拠を目指し、舵を切り直していきます。 備考:Verifiable Credentialは、W3Cが提唱するコンセプト、SSI(Self-Sovereign Identity)の考え方に従って生まれた様々な個人情報を束ねるための標準規格。DID(Decentralized Identifiers)と組み合わせることで、現在の企業依存の個人情報管理から個人が主権的に自分の個人情報を開示することが可能になる。 当社がLearning Machine社のエンジニアとのオンラインミーティングを持った際、彼らから伺った開発のマイルストーンによれば、Blockcertsは2020年夏にVerifiable Credentialへの準拠完了を予定しているとのことでした。 我々はLM社の開発スピードに驚きつつ、日本で唯一デジタルクレデンシャルを専業領域として取り組むスタートアップとして非常に嬉しくもあり、称賛の言葉を贈りました。 (本ミーティングは新型コロナウィルスが世界的に流行する前に行われたため、現在はスケジュールが変更されている可能性があります) Learning Machine社がHyland社へジョイン。 Learning Machine社は、高等教育、ヘルスケア、金融サービス、保険、政府向けのコンテンツプラットフォームの大手プロバイダーであるHyland社の一部となり、「Hyland Credentials」として今後活動していくと発表されました。 ハイランドソフトウェア(英: Hyland Software, Inc.)は、OnBaseと呼ばれるエンタープライズコンテンツ管理(ECM)とプロセス管理ソフトウェアスイートの開発会社である。 Wikipediaより ラストも、米国高等教育機関向けシステムの導入実績を重ねてきた同社と「Hyland Credentials」のシナジーに注目しています。 ブロックチェーン証明書を含むデジタルクレデンシャルはどこに向かっているのか 欧米では、資格や学位等の「クレデンシャル」が人材市場において日本よりも大きな意味を持っています。 特定の資格を保持していないと就けないポジションや職種が数多く存在し、その一つ一つのクレデンシャルの価値を相対的に測る指標も存在します。 また、特にEUでは異なる国同士で人材の行き来があり、各個人のスキルを定量的に評価する指標が必要だった、という地政学的背景もあります。 さらに現代社会はアフターコロナへの時代へとパラダイムシフトし、「非接触」「デジタル化」の必要性・重要性と共にデジタルクレデンシャルの普及が日本を含む世界中で始まろうとしています。 手前味噌ですが、ラストはビジネス・ブレークスルー(BBT)社へ、ブロックチェーン証明SaaS「CloudCerts」から日本初となるブロックチェーン修了証明書を提供しました。 BBT社のプレスリリースから一部引用します。 受講生の修了履歴がブロックチェーンに記録されるため、修了生の修了実績や能力の情報が所属企業の人事部等に共有可能となり、将来的に修了生のキャリアパスの最適化が期待できるため、大前経営塾では導入を決定いたしました。今後、BBTのその他のプログラムへの展開も検討しています。 ブロックチェーン証明書は、ブロックチェーンに学びのログ(スタディログ)、あるいは学位を記録することで、その学習者の実績を半永久的に改ざん不可能な形で担保できます。 「公的なお墨付きが付いたポートフォリオ」として活用することで、特にジョブマッチングへの効果を期待できるのです。 これは「学習の出口戦略」とも言え、教育機関には卒業生の活躍の場が増えることでのブランディング面でのメリット、学習者にとっては学ぶことの動機づけに直結すると考えています。 このように、デジタルクレデンシャルの普及とあらゆる事業領域のデジタル化はリンクしている事象であり、来るWeb3.0の潮流と同じ方向を向いています。 ラストは今後も、この領域で研究と開発・マーケティングを進め、単なる「紙の証明書のデジタル化」では終わらない、むしろそこから始まる新たな価値創造、デジタルトランスフォーメーションを進めていきます。