ブロックチェーン証明書発行OSS「Blockcerts」とLearning Machine社の最新レポート

LasTrust(以下ラスト)は、MITのMedia LabとLearning Machine社が共同開発したOSS(オープンソースソフトウェア)である「Blockcerts(ブロックサーツ)」を活用し、ブロックチェーン証明書発行システム「CloudCerts®」を開発しました。 

今回の記事では、Blockcertsがどういった規格であるか、そして米Hyland社への吸収合併を発表した、開発元であるLearning Machine社の最新の動向についてまとめます。

この記事は、同社の開発担当上級副社長ナタリー・スモレンスキー氏が来日した際の会食、同社のエンジニアチームとのオンラインミーティングで伺った内容をもとに執筆しました。

Blockcertsとは?

BlockcertsはLearning Machine社とMITのMedia Labで2016年に共同開発が行われ、ブロックチェーン証明書発行のコアとなるOSS(MITライセンスで商用利用も可)が提供されています。

https://github.com/blockchain-certificates

ブロックチェーン証明書発行事業者は、このオープンソースを軸に、様々な仕様のブロックチェーン証明書発行システムを構築できます。

ラストもこのOSSを使用し、「CloudCerts®」を独自に開発しました。

Blockcertsに関する詳しい記事はこちらを御覧ください。

 

 

OSSを活用する理由

ブロックチェーン技術を利用したあらゆるサービスは、非中央集権的なガバナンスを実現するため、その内部動作の透明性を担保しています。

ブロックチェーン証明書も同様ですが、加えて様々なユーザー間で送受信が可能なプラットフォームが必要になります。

そういった背景を鑑み、ラストは現在のブロックチェーン証明書発行のデファクトスタンダードであるBlockcertsを発行システムのコアに採用しました。

そして、マーケットのニーズに応じたカスタマイズを独自に行い、「CloudCerts」を開発。デジタルIDの取り扱いの新規性を軸に特許出願を行いました。

 

Learning Machine社とW3C、IMS Globalの関係性について

2020年1月、日本IMS協会「デジタルバッジ関連標準国内導入検討部会」が開催した「新春デジタルクレデンシャル最新動向セミナー」に、ゲストとしてLearning Machine社(以下LM社)から開発担当上級副社長ナタリー・スモレンスキー氏が招かれ、講演が行われました。

デジタルバッジ関連標準国内導入検討部会のメンバーであるラストも参加し、 食事会にてナタリー氏にLM社とW3C、IMS Globalとの関係性について質問しました。

ラストがLM社の動向に興味を持つ理由は2つあります。

第一に、Blockcertsが、W3Cが推進しているWeb3.0対応規格である「Verifiable Credential(ベリファイアブル・クレデンシャル)」に準拠する可能性が高いこと。

(Verifiable Credentialとは何か、別の記事で特集しますので、Web3.0におけるデジタルクレデンシャルについて興味のある方はぜひ御覧ください。)

第二に、Blockcertsが開かれた開発コミュニティでありながらも、依然としてLM社が中心となって開発が行われているため、Blockcertsをコアシステムに採用しているラストとしては、Blockcertsがどの方向に進むのか、いち早く把握しておく必要があるためです。

Blockcertsは当初、OpenBadgesへの準拠を進めていた

Blockcertsコミュニティでは、2つの異なる規格との互換性が議論されていました。

IMS Globalが推進する「OpenBadges」と、W3Cが推進する「Verifiable Credential」です。

Blockcertsの初期開発チームから参加しているKim Hamilton Duffy氏は、W3Cのデジタルクレデンシャルを推進するコミュニティ「Credentials Community Group」で共同議長を務める傍ら、IMS Globalとも積極的にデジタルクレデンシャルの在り方を議論していました。

IMS Globalは10年以上の歴史を持つデジタルバッジの標準規格、OpenBadgesを推進しています。

OpenBadges自体はブロックチェーンに関連するものではないため、Blockcertsは当初、本規格のブロックチェーン拡張としての位置づけを目指し、改良を重ねていました。

(実際にBlockcertsのソースコードにはOpenBadgesに関係する箇所が見受けられる)しかし、はっきりとした要因は不明ですがOpenBadgesへの対応は見送りとなります。

(当社の研究では、BlockcertsがOpenBadgesに準拠するためにはOpenBadges側のバリデータの仕様を更新する必要があり、そこが障壁になったのではないか、と考えています)

BlockcertsはVerifiable Credential準拠へ

その後、BlockcertsはW3Cが制定を進めるWeb3.0の自己主権型個人情報プロトコル「Verifiable Credential」への準拠を目指し、舵を切り直していきます。

備考:Verifiable Credentialは、W3Cが提唱するコンセプト、SSI(Self-Sovereign Identity)の考え方に従って生まれた様々な個人情報を束ねるための標準規格。DID(Decentralized Identifiers)と組み合わせることで、現在の企業依存の個人情報管理から個人が主権的に自分の個人情報を開示することが可能になる。

当社がLearning Machine社のエンジニアとのオンラインミーティングを持った際、彼らから伺った開発のマイルストーンによれば、Blockcertsは2020年夏にVerifiable Credentialへの準拠完了を予定しているとのことでした。

我々はLM社の開発スピードに驚きつつ、日本で唯一デジタルクレデンシャルを専業領域として取り組むスタートアップとして非常に嬉しくもあり、称賛の言葉を贈りました。

(本ミーティングは新型コロナウィルスが世界的に流行する前に行われたため、現在はスケジュールが変更されている可能性があります)

Hyland Credential社のエンジニアとのオンラインミーティング

Learning Machine社がHyland社へジョイン。

Learning Machine社は、高等教育、ヘルスケア、金融サービス、保険、政府向けのコンテンツプラットフォームの大手プロバイダーであるHyland社の一部となり、「Hyland Credentials」として今後活動していくと発表されました。

ハイランドソフトウェア: Hyland Software, Inc.)は、OnBaseと呼ばれるエンタープライズコンテンツ管理(ECM)とプロセス管理ソフトウェアスイートの開発会社である。

Wikipediaより

ラストも、米国高等教育機関向けシステムの導入実績を重ねてきた同社と「Hyland Credentials」のシナジーに注目しています。

ハイランドクレデンシャル

ブロックチェーン証明書を含むデジタルクレデンシャルはどこに向かっているのか

欧米では、資格や学位等の「クレデンシャル」が人材市場において日本よりも大きな意味を持っています。

特定の資格を保持していないと就けないポジションや職種が数多く存在し、その一つ一つのクレデンシャルの価値を相対的に測る指標も存在します。

また、特にEUでは異なる国同士で人材の行き来があり、各個人のスキルを定量的に評価する指標が必要だった、という地政学的背景もあります。

デジタルクレデンシャル

さらに現代社会はアフターコロナへの時代へとパラダイムシフトし、「非接触」「デジタル化」の必要性・重要性と共にデジタルクレデンシャルの普及が日本を含む世界中で始まろうとしています。

手前味噌ですが、ラストはビジネス・ブレークスルー(BBT)社へ、ブロックチェーン証明SaaS「CloudCerts」から日本初となるブロックチェーン修了証明書を提供しました。

BBT社のプレスリリースから一部引用します。

受講生の修了履歴がブロックチェーンに記録されるため、修了生の修了実績や能力の情報が所属企業の人事部等に共有可能となり、将来的に修了生のキャリアパスの最適化が期待できるため、大前経営塾では導入を決定いたしました。今後、BBTのその他のプログラムへの展開も検討しています。

ブロックチェーン証明書は、ブロックチェーンに学びのログ(スタディログ)、あるいは学位を記録することで、その学習者の実績を半永久的に改ざん不可能な形で担保できます。

「公的なお墨付きが付いたポートフォリオ」として活用することで、特にジョブマッチングへの効果を期待できるのです。

これは「学習の出口戦略」とも言え、教育機関には卒業生の活躍の場が増えることでのブランディング面でのメリット、学習者にとっては学ぶことの動機づけに直結すると考えています。

このように、デジタルクレデンシャルの普及とあらゆる事業領域のデジタル化はリンクしている事象であり、来るWeb3.0の潮流と同じ方向を向いています。

ラストは今後も、この領域で研究と開発・マーケティングを進め、単なる「紙の証明書のデジタル化」では終わらない、むしろそこから始まる新たな価値創造、デジタルトランスフォーメーションを進めていきます。

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