今回はVerifiable Credentialsについて、より理解を深めることを目的に解説していきます。 Verifiable Credentials の基本的な情報についてはこちら。 Verifiable Credentials(VCs)は、言葉通り解釈すると「検証可能な認証情報(クレデンシャル情報)」というように理解されてしまいますが、これは間違いです。 正確にはクレデンシャル情報を格納する「箱」であり、Digital Trust Ventures のTimonthy Ruff氏も「VCsとはコンテナのようなものである」と提唱しています。 では、次項からこの解釈についてより詳細に解説していきます。 VCsとは「コンテナ」のようなものである まず、VCsは情報そのものを指すものではなく、その情報を格納する入れ物つまりコンテナであり、検証されるのは「その入れ物の真正性」になります。 また、VCsが検証可能なコンテナのようなものであるならば、「検証可能なデータ伝達方法」と言い換えることもできます。 VCsは任意の種類のデータ(ID、資格情報、卒業証書など)を格納することができ、このデータをパッキングする主体を「発行者」(issuer)と呼びます。また「検証者」(verifier)と呼ばれるVCコンテナの受信者は、そのペイロード(またはその部分集合のプルーフ)を解凍して検証します。 発行者と検証者の間には、通常標準化されたSSIデジタルウォレットでVCを運ぶ人為的作業が発生しますが、VCsは他の方法で転送したり、リレーショナルデータベースまたは分散型台帳に保存したりすることもできます。 つまり、 自身でデータを管理するためのSSIデジタルウォレットを用意し、P2P(ピアツーピア)で他者、組織、または物との接続を許可する。 主体からVCsを受け取り、ウォレット上で保有した場合は保有者(holder)と呼ばれ、逆にVCsを提供した主体は上記のように発行者(issuer)と呼ばれる。 というのが一連の流れです。 また、このVCsのデータ全てではなく、一部を共有することもできます。(SSI※) さらに、VCsを保有していることの証明や、複数のVCをまとめた複合証明の共有も可能です。 ※SSIについてはこちら。 他方で、検証者は共有されたものが 「誰(または何)によって発行されたのか」 「誰に対して発行したのか」 「発行からの改ざんの有無」 「発行者主体による取り消しの有無」 を検証することができます。 重要な点は、「データが検証可能である」という点に関して真正性があるのではなく、その入れ物(コンテナ)であるVCsが検証可能であるということです。 Blockcertsを例に取ると、誰(大学など教育機関)がコンテナ(VCs)に卒業証明書情報を梱包したのかという「VCsの出所」を確認することはできますが、格納されたデータそのものの真正性を検証できるものではありません。 よって、大学側が卒業生ではない誰かに卒業証明書を偽造して発行するといったことは可能であり、学歴詐称を根本的に防げるようなものではありません。 つまり「VCsとは検証可能なコンテナである」という文章は、データを運ぶ入れ物として信憑度が高く、高速伝搬可能であるという点を表現しており、VCsが既存の情報伝達の過程に関する課題解決に貢献するものであるということを示しています。 既存の証明書発行技術は逐一発行者に連絡し、発行を依頼するというプロセスが発生します。ですが、VCsにより検証者は元の発行者に連絡することなく、上記に示した4つを即座に検証することができるのです。 Verifiable Credentials がもたらす広大な可能性 加えて、VCを貨物用コンテナに例える理由は、「検証可能なデータ伝達方法」であるという側面だけでなく、貨物用コンテナのようにVC規格の標準化が進むことで、「信頼のおける情報の取引コストが劇的に効率化」するという意味も含まれているからです。 Timonthy Ruff氏は、実際に「コンテナ規格の標準化」(ISO)を導入し、様々な業界の主体をISOに準拠させたことで、世界貿易の取引コストを劇的に効率化したことを例に挙げ、VCs標準化の可能性を示しています。 具体的な課題を挙げると、 ユーザー名とパスワードの複数保持 面倒なフォームとオンボーディングのプロセス サービスセンターに電話する際の、口頭での認証、転送の再認証 契約署名の有無、同意への待機時間 あらゆる種類の申請が承認されるまでの待機時間 あらゆる種類の文書、記録のタイムラグ 検証に依存する、多くの遅くて面倒なプロセス これらすべてを解決した際の経済効果はかなり大きく、ユーザーエクスペリエンスも素晴らしいものになるでしょう。特に、プロセスとワークフローは、簡素化・自動化・高速化でき、ほぼシームレスなエクスペリエンスを提供できます。 いくつかの課題はあるものの、VCで何が実現できるのかを探索し、実証し、広く社会認知させていくことの必要性は非常に高いと考えられます。 弊社は今後とも業界を越えたコラボレーションを実現し、VCsの標準化に寄与してまいります。
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ブロックチェーン証明書の標準規格「Blockcerts」の導入事例まとめ
今回は、弊社の『CloudCerts』にも活用しているブロックチェーン証明書の標準規格『Blockcerts』について、世界各国の具体的な導入事例をまとめました。 Blockcertsについてはこちら。 世界的に見たBlockcertsのメリットについてはこちら。 ブロックチェーンベース卒業証明書 実際に、当社のCloudCertsから発行されたBlockcerts準拠のブロックチェーン証明書が以下です。 Cloudcertsについての詳細はこちら。 『Blockcerts』はマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボとLearning Machine社(現在はHyland社傘下)との共同開発で生まれ、2017年10月には、一部の学生向けにBlockcertsを利用したブロックチェーンベースの学位証明書が導入されました。 また、Blockcertsを利用したブロックチェーン卒業証明書では、『Blockcerts Wallet』と呼ばれるアプリケーションを利用しており、生徒や卒業生はiOSおよびAndroidで、自身の学位証明情報や卒業証書を簡単に管理できるようになりました。 これを皮切りに、以下の教育機関がBlockcertsによる卒業証明書の発行を開始しています。 ハーバード大学(アメリカ) ニューメキシコ州立大学(アメリカ) メルボルン大学(オーストラリア) マルタ大学(マルタ共和国) バーレーン大学(バーレーン) 香港科学技術大学(香港) バーミンガム大学(イギリス) その他にも、世界中の教育機関がBlockcertsによる学位証明の提供や実証実験を進めています。 日本でも、2018年に経済産業省・文部科学省が共同でBlockcertsの教育機関への利用を発表しており、ブロックチェーン学位証明書を提供するための取り組みを行っています。 (参考:大学学位証明、オンラインで取得 ブロックチェーン活用) ブロックチェーンアイランド「マルタ共和国」 マルタ共和国は国家戦略として「ブロックチェーン国家」を掲げており、卒業証明書のみならず、日常のあらゆる分野にBlockcertsを活用しています。 以下はLeaning Machine社とマルタ共和国政府が、Blockcertsをを活用して検証可能にしたブロックチェーン証明書の例です。 教員免許証 運転免許証 不動産契約 結婚証明書 原産地証明書 出生証明・残高証明書 教員免許証と不動産契約については既に義務付けが決定している等、マルタ共和国政府は日常生活におけるブロックチェーンのさらなる普及を推進しています。 以下は実際にマルタ高等学校を卒業した際の成績書です。 医療資格や患者の診断書や記録 「Blockcerts」を利用したブロックチェーン証明書は、医療資格証明書にも活用されています。 米国を中心とした70の医療機関及び整骨院を代表する米国連邦医療委員会 (FSMB)は、医学教育資格をブロックチェーン上で検証することを可能にしました。 具体的には、医療資格に「Blockcerts」を利用したブロックチェーン資格証明書を発行することで、発行機関またはプラットフォームベンダーが機能を停止した場合でも、受信者が自分の記録を所有し、永久にそれらを共有および検証できるようにしています。 また、FSMBは医師のみでなく患者の診断書をシームレスに共有する取り組みも行っています。 コロナウイルスで浮き彫りになった「医療提供の機会」 米国は、COVID-19による深刻な医療従事者の不足を踏まえ、FSMBが取り組む「Blockcerts」を利用した医療資格提供を、米国本土全体に応用することを検討しています。 この背景には、特に人員不足が深刻だったニューヨーク州をはじめ、様々な州が一時的に高額な報酬で医療従事者を募集したものの、応募者の資格検証に複雑なプロセスを要することにより結果的に患者への対応に支障をきたしてしまった、という事情がありました。 同プロジェクトは、Blockcertsの開発コミュニティの中心であるHyland社がHyland Credentials(Blockcertsの新名称)を採用予定であり、安全かつ迅速な方法で医療従事者を現場に投入するプロセスを提供できるとしています。 その他にも、欧州や中東、アフリカではCOVID-19の影響を受け、電子投票やソーシャルディスタンスを保つための管理システムにブロックチェーンを活用することが公表されており、その一部に「Blockcerts」を活用することが検討されています。 国連主導のプロジェクト「C-Lab」 2020年より実証実験が開始されている、米国のプロジェクト「C-Lab」にもBlockcertsが活用されています。 「C-Lab」は、SDGs(持続可能な開発目標)の一つ、「質の高い教育をみんなに」を達成するために発足したコロラド州全体のプロジェクトです。 2023年にコロラド州での実証実験を終えた後、国連主導のもと世界中に社会実装されていく予定です。 「C-Lab」の概要についてはこちら。 そして、当社も日本唯一のデジタルクレデンシャル専業のスタートアップとして、Blockcerts準拠の証明書を日本の教育機関向けに提供しています。 参考 Electronic Documents Verification Program Digital Diploma debuts at MIT Malta Passes Trio of Bills as Part of ‘Blockchain Island’ Plan 大学学位証明、オンラインで取得 ブロックチェーン活用 Federation of State Medical Boards Blockcerts help get healthcare providers into the field safely and quickly Malta to Register All … Read More
ブロックチェーン技術を用いた次世代ファイルストレージサービス「Filecoin」
Peer to Peer(P2P)ネットワーク上で動作する分散ファイルシステム:IPFSを利用したFilecoin(ファイルコイン)について紹介します。 まずIPFS(InterPlanetary File System)とは、Protocol Labsにより開発が進められている、P2Pネットワーク上で動作するハイパーメディアプロトコルです。 現在のインターネットで主要なプロトコルはHTTP(Hyper Text Transfer Protocol)ですが、それを補完または置換するプロトコルとして注目を集めています。 IPFSについての詳細はこちら。 Filecoinの開発企業「Protocol Labs」 Protocol Labsは2014年に、IPFSとFilecoinを考案したJuan Benetによってシリコンバレーで創業されました。 Protocol Labsの主なプロジェクトとして、P2P通信や、P2P上の分散ファイルシステムやコンテンツデリバリーネットワークが挙げられます。中でも、IPFS・libp2p・Filecoinは画期的なプロジェクトとして、中国を中心に注目を集めています。 Filecoinとは Filecoinは、P2Pネットワーク上で、ストレージを提供する個人や中小企業が報酬を得ることが出来る分散ネットワークです。 既存のIPFSのプロジェクトでは、ストレージを提供する側に経済インセンティブがないという課題があり、ピン止めされたコンテンツしか永続的に保存されませんでした。つまり、IPFSではアクセスされないファイルは消えてしまう可能性があるという課題を抱えていたのです。 この課題を解決するべく、インセンティブが設計されたネットワークがFilecoinです。 Filecoinの仕組み Filecoinの仕組みとしては以下が挙げられます。 ユーザーはお金を払ってマイナー(ストレージの供給者)にファイルの保存を任せる。 ストレージマイナーは、Filecoinのブロックチェーンを参照し、ファイルが正しく保存されていることを証明する役割を担う。 Filecoinのブロックチェーンには、独自のブロックチェーンと暗号通貨(FIL)を送受信するための取引履歴、ストレージマイナーがファイルを正しく保存しているという証明を記録する。 FilecoinにはFILが存在し、ストレージマイナーは、ファイルを格納するとFILを報酬として獲得する。 特徴として、ファイルストレージを使う側としても、提供する側としても自由にFilecoinのネットワークに参加できることが挙げられます。 また、オープンなマーケットで取引されており、ユーザーはどのストレージにファイルを保存するか・ストレージの性能・利用するストレージの数を自由に選ぶことができます。 Filecoinのメリット Filecoinのストレージを使用するユーザーのメリットとして下記が挙げられます。 オープンな市場のため価格が低くなる。 最適なストレージを提供しているマイナーを選択する事ができる。 プロバイダーごとに異なるAPIの実装が不要。 Filecoinのブロックチェーンにいつでもアクセスし、ファイルが正しく保存されているかを確認することができる。 一方、ストレージプロバイダーとしてのメリットは以下が挙げられます。 オープンなマーケットでストレージを販売することが可能 ファイルの保管により、多くのブロック報酬を受け取ることが出来る。 ネットワークへのアクセスは、Filecoinのプロトコルによって自動的に処理されるため、独自APIの設計・提供するサービスの宣伝が不要。 Filecoinの将来性 FILは上記のようにマイナーへの配布量は多く、最初の1年間でマイナーが8000万FILを得ます。 つまり最初の数年は極めてインフレーション率が高いコインとなっていますが、これは初期にストレージ提供者を増やすための設計であると考えられます。 よって、大規模な初期投資が必要で、参入障壁が非常に高かったクラウドストレージ市場に対し、オープンな市場を提供する、新しいシェアリング型プラットフォームとして今後普及が見込まれています。 参考 https://docs.filecoin.io/introduction/what-is-filecoin/ https://coinlist.co/assets/index/filecoin_index/Filecoin-Sale-Economics-e3f703f8cd5f644aecd7ae3860ce932064ce014dd60de115d67ff1e9047ffa8e.pdf https://filecoin.io/filecoin.pdf https://medium.com/swlh/ultimate-guide-to-filecoin-breaking-down-filecoin-whitepaper-economics-9212541a5895
ブロックチェーンによる分散型信用スコア「Bloom」
今回は、前回まとめたCOLENDIに比肩する規模の分散型信用スコアサービスを提供する「Bloom」についてまとめました。 COLENDI、分散型信用スコアリング機能についてはこちら。 Bloomとは Bloomは2017年にアメリカで創業されました。 創業の目的として主に以下2点が挙げられています。 スコアリング情報などの個人情報の分散管理 世界中の人々へのグローバルな信用の提供 創業同年、信用情報管理事業において米国最大手のEquifaxがサイバー攻撃を受け、国民の半数以上に及ぶ1億5千万人の信用情報のデータが漏洩したという事件がありました。 この事件以降、アメリカの信用スコアリングモデルを提供するFICO、及びその算出に携わる信用調査機関の中央集権的な構造に対し疑問視する声が上がりました。 この構造への解決策として期待されたBloomは当時、ICO(暗号資産による資金調達方法)を実施し、$41,400,000(約45億円)を調達しています。 またCOLENDIと同じく、世界の約30億人が銀行口座を持つことができないという問題を解決するために、ボーダレスに通用する信用スコアの提供を目指しています。 Bloomのサービス Bloomが提供するサービスはBloomID・BloomIQ・BloomScoreの3つです。 BloomIDは世界中で利用可能な分散型IDを提供するサービスです。また、今後の構想として、BloomIQでユーザーの取引履歴を蓄積し、その情報を基にスコアリングサービスであるBloomScoreを提供していくことが発表されています。 BloomIDをiOS上で提供するBloomAppsは、2019年2月にUS AppStoreのUtilityカテゴリーでTOP10入りを果たし、現在では25万人以上のBloomIDを発行しています。 BloomAppsの特徴として、ストレージ方法にブロックチェーンとの親和性が高い分散型プロトコル・IPFSを採用していることが挙げられます。(IPFSについてはこちら。) よって、金融機関へのデータ提供による個人融資のみならず、Peer to Peer によるレンディングサービスも提供可能になっています。 これらのサービス以外にも、銀行口座に紐付ける必要がなく、世界中誰でも発行可能なクレジットカード「BloomCard」の発行が予定されています。 このカードは無担保消費者への信用を可能にすることで、発展途上国でBloomScoreを浸透させることを目的としています。 外国為替手数料や海外送金手数料を省くため、ETHを支払手段とする予定です。 スコアリングの算出方法 BloomScoreの算出方法はwhitepaperにて公開されています。 フェーズが以下の3つに分かれています。 フェーズ1 支払い総額と未払金総額 最長の返済履歴 平均月間支払額 過去のローンの数 すべてのレポート情報横断での支払総額 フェーズ2 ステークしたPeerの平均スコアが数式の変数として追加。 フェーズ3 自身の金融取引だけでなく、過去の履歴から、そのユーザーとの金融取引に積極的なステークホルダー(Bloomユーザー)の取引実績値に基づいたスコアを算出。 また今後のロードマップとして、Bloom Token(BLT)を発行し、さらなるクレジットスコアへの機能強化を図っていくことが予定されています。 Verifiable Credentialの発行開始 Bloomは、2020年のコロナウィルス感染症によるパンデミックへの対応の一環として、検証済み免疫証明書(Verifiable Immunity Credentials)の発行を開始しました。 この証明書はコロナウィルスの免疫を獲得していることを証明可能であり、BloomIDに紐づく形になっています。 またユーザーの医療情報や診断結果はプライバシーとして保護されている設計となっています。 かつてない失業率、医療現場などの人員不足が起こっている現在、この危機への対応策として世界的に注目を集めています。 参考 Major Milestone: 250,000+ BloomIDs Created↩ https://twitter.com/Bloom/status/1104121421628755968↩ https://bloom.co/whitepaper.pdf https://bloom.co/ Helping Fight COVID-19 with Verifiable Immunity Credentials
ブロックチェーンで分散型信用スコアリング「COLENDI」
今回はブロックチェーンを活用した信用スコアリングのプロジェクトの一つ、『COLENDI』についてまとめました。 COLENDI とは 『COLENDI』は、2016年2月にスイスのツーク州で設立されましたが、2019年2月に開発拠点の1つであるトルコでプロダクトをローンチした為に、現在トルコと中国が開発拠点となっています。 COLENDIは「世界中のすべての人にフィナンシャルスコアとアイデンティティを与え、彼らに安心と安全を保証する」をビジョンに掲げ、マイクロクレジットや信用スコアリングのプラットフォームとしてプロジェクトを進めています。 プロダクトの特徴として、ブロックチェーンを利用していることが挙げられます。顧客のデータを保護しながら、開発された信用スコアリングを基にユーザーに自己主権とデジタルIDを提供しています。 信用スコアリングの問題点 既存の信用スコアリング、及びその際に使用される個人情報の管理については、 特定の組織が中央集権的に管理(例:マイナンバー制度) スコアリングアルゴリズムの違い 特定の地域や国の中でのみ有効な証明 といった課題が存在します。以下、各項目ごとに詳しく説明します。 1.中央集権的な管理の場合、サイバー攻撃などによる情報漏洩のリスクがあります。 例えば、2017年に信用情報管理事業において米国最大手のEquifaxがサイバー攻撃を受け、国民の半数以上に及ぶ1億5千万人の信用情報のデータが漏洩しました。 このように、特定の機関へ情報管理を委託することは、プライバシー保護が十分に行き届いてないことを意味します。 2. 消費者の信用スコアリングについても、Equifaxや芝麻信用※のような信用情報機関が、どういったプロセスで格付けや債券のスコアリングを行っているかが不透明な部分が多いと言われています。 また、企業毎に、提供する信用スコアのアルゴリズムは異なっており、性別の変更のみでスコアに差異が出るような信用スコアが存在していることも課題です。 ※芝麻信用:中国モバイル決済においてトップシェアにある『Alipay(アリペイ)』のアプリに搭載されている機能の一つ 3. 世界銀行の統計データによると、世界には銀行口座を持っていない人々が約20億人存在すると言われています。よって、クレジットカード作成も不可能であり、自らの信用情報を証明することが困難であるため、ローンなどの様々な金融機会にアクセスすることができません。 また、現在の発展途上国において、ローンを受けている人は全体の10%にも満たないという現状があります。 これは金融業者が借り手を評価することが困難であることが原因であり、高利子貸付などの違法なマーケットの拡大につながってしまいます。 分散信用スコアリングとは 上記の課題を解決するべく開発されたのが、分散信用スコアリングです。 分散信用スコアリング(decentralized credit scoring)は既存のスコアリングと異なり、分散的に個人情報を取得・管理し、算出する信用スコアリング技術です。 つまり、企業にデータを預けずに、ブロックチェーン上で個人情報を管理するため、データ流出・漏洩のリスクを回避することができます。 また、銀行口座やクレジットカードを持たない人でも、債務履歴や返済率を元に信用情報を獲得可能であり、既存の金融機関にアクセスできない人々に資金調達の機会を提供できます。 さらに、オープンソースコード上のスマートコントラクトを見れば格付けプロセスを把握することができるため、透明性を保証できます。 Colendiは、この分散型スコアリングの機能を持つプロダクトを提供しており、取引履歴やスマートフォン、ソーシャルメディアなどから収集された情報により信用スコアを算出します。 信用スコアの指標とデータ取得方法 COLENDIの信用スコアでは、1000以上の指標を元にしています。 主な例として下記が挙げられます。 Smartphone data(スマートフォンデータ) Social media data(ソーシャルメディアのデータ) Transaction data(取引データ) Blockchain credit history data(ブロックチェーン上のクレジットヒストリーデータ) Personal data(パーソナルデータ) 更に通信の決済履歴や購買データも指標に入れるため、通信会社や大手のリテールチェーンといった企業とのパートナーシップを進めています。 また、算出する信用スコアに、機械学習を活用したアルゴリズムを使用しており、特許取得済となっています。 COLENDIでは、データ提供の対価として独自のトークンを支払います。これにより、トークンによって自律的にインセンティブ設計を行うシステムの構築を実現しています。 また、ブロックチェーンを利用することで、データの編集や閲覧が不可能なシステムを構築し、ハッシュ化されたデータの署名をチェーンに記録し、改ざん不可能な形式で保存することができます。 enigmaとCOLENDIとのパートナーシップ ユーザーのプライバシーの強化のため、COLENDIはenigmaとパートナーシップを結んでいます。 ブロックチェーン上に格納されているデータは世界中の人々が参照できるため、ユーザーの個人情報をノードが閲覧できないようにする必要があります。 enigmaはトランザクションデータを分散的に秘匿化する技術を持っています。具体的には、イーサリアム(Ethereum)ブロックチェーンのスマートコントラクトを用いつつ、ユーザーがCOLENDIのアプリケーションにログインすると、自分のIDのみがネットワーク上の他のユーザーと共有され、データ全体を非公開にすることができます。 そして、IDパラメータへのアクセスは、ユーザー所有のスマートフォンと、登録時にユーザーに与えられた秘密鍵によってのみ可能となります。 COLENDIと分散型信用スコアリングの将来性 デジタル社会では、個人を取り巻くデータが増え続けるのと同時に、常にデータ漏洩の危険が存在しています。よって、保護されたデータを使用して自身の信用度をスコアリングできるサービスは、今後さらにニーズが増加していくと考えられます。 加えて、個人情報を提供せずとも、分散信用スコアリングによって得た評価により、サービスを受けることも可能になります。つまりユーザーや企業が、個人情報を保護するセキュリティに膨大な労力と費用を費やす必要がなくなるのです。 また、2019年6月に発表された、送金コストのWorld Bankの報告によると、世界の送金平均コストは6.84%でした。一方、南アフリカをはじめとした、低所得国や中所得国からの送金コストは、依然として20%をやや上回っています。 そこで、COLENDIは、上記に述べた銀行口座の問題に加え、国境を越えた支払いコストの節約を目標に掲げています。マッキンゼーの調査レポートによると、COLENDI他、リップルやリブラアソシエーションが取り組んでいる、ブロックチェーンプロジェクトの効果は年間最大40億ドルの節約に値するとしています。 このように、世界的にボーダレスな分散型信用スコアは、今後さらに「国」という枠を超えてビジネス及び生活に浸透していくと考えられます。 参考 Why does Colendi use blockchain technology? Next Generation Banking Shaped by Fintech 3.0 マッキンゼー当局による世界銀行調査報告書 https://interbit.io https://www.slideshare.net/NOAHAdvisors/colendi-noah19-berlin
世界規模の証明書デジタル化プラットフォーム「DIGITARY」とは
今回は世界規模のクレデンシャルプラットフォーム「DIGITARY」が提供する各サービスについて紹介します。 DIGITARYとは DIGITARYは、グローバル化に伴った欧州での偽卒業証書製造所問題を受け、不正な大学入学申請を防ぐためにAndy Dowlingによって2005年に設立されたアイルランドの会社です。 「資格情報をオンラインで発行、保存、検証するための安全な方法を提供する」というビジョンの下、学歴の認証・共有・検証のためのオンラインプラットフォームを提供しており、現在135か国以上の組織で使用されています。 主な顧客は、アイルランド、英国、中国、インド、ポルトガル、米国、カナダの教育機関や政府、そして現在はオーストラリアとニュージーランドの教育機関もいくつか加わっています。 例えば中国では、中国教育省(CHESICC)と協業し、中国人海外留学生の学歴を検証するプラットフォームとして利用されています。 また、世界トップ10の大学すべての学歴がDIGITARYを通じて検証可能であり、ケンブリッジ大学、マンチェスター大学、ロンドンスクールオブエコノミクスを含む英国大学の76%が、DIGITARYを使用して資格検証を行っています。 Digitary CORE Cloud Platform DIGITARYが提供するクラウドプラットフォーム「DIGITARY CORE(Digitary Certified Online Record Exchange)」では、世界中の学生が、デジタル署名された卒業証明書や学習記録にオンラインでアクセスすることができます。 この学生の情報は、雇用主、教育プロバイダー、政府、その他のサードパーティと共有することができます。 使用するメリットとして以下が挙げられます。 安全なデジタル技術の使用による信用詐欺の減少 学習者と雇用者主体の管理サービスによるコスト削減 学習者の学業記録への容易なアクセス 学習者の認定資格や学習記録の第三者への共有、検証 GDPR(データのプライバシーと保護)に準拠(詳細はこちら) https://www.thebadgesummit.com/ より引用 更に新機能として「Digitary Badge」を実装しています。これはOpen Badge標準に準拠しているため、あらゆる学習記録を検証可能な形式で表すことを可能にしました。 ユーザーはDigitary Badgesを使用して、授与されたバッジを受け取って収集できます。また、バッジを共有し、成果と能力を実証することで、雇用市場へのサポートとして役立ちます。 一方、教育機関ではDigitary Badgesを使用することで、カリキュラムを調整し、学習者のスキルと能力の認識を強化できます。 OpenBadgeとブロックチェーン証明書の違いについてはこちら。 DIGITARY VIA DIGITARY VIA (Verified International Applicants)では、Digitary COREやDigitary Badgeで得た学歴や学習履歴を、国際的に検証された形でサポートを受けることができます。 このサービスでは、国際的に信頼されている専門家で構成された資格評価チームによって検証・翻訳・評価されます。 検証済みの記録は、独自のアプリケーション『Digitary Wallet』に保存されるため、申請者は記録の共有を制御し、さらなる研究や雇用を申請するときに利用できます。 使用するメリットとして以下が挙げられます。 検証済みの学歴や学習記録の国際的検証 Digitary Wallet内の検証済み記録にどこでもアクセス可能 他の機関への申請に再利用可能 学術記録を英語版に翻訳 中間資格の評価、完了時の完全資格への更新 SSI準拠に向けた取り組み DIGITARYは、2019年11月にSSI準拠した分散IDネットワークを提供するEvernymと協業を発表しています。 Evernymの副社長であるAndy Tobin氏は、このパートナーシップにより、数千人の学生がデジタルライフを管理できる可能性があるとしています。 また、Digitaryの創設者兼最高経営責任者であるAndy Dowling氏は、「現在SSIとブロックチェーンを適応させる最善の方法を検討しており、適切なテクノロジーを適切なタイミングで取り入れていく」と語っており、今後分散型IDへの取り組みが進むことが見込まれます。 一方で、同氏はブロックチェーンに対し、「ブロックチェーンを利用することで、発行者、学習者への負担が大きくなることが懸念される。オンチェーンやオフチェーンなど、様々なブロックチェーンペースのソリューションに対し標準化が複雑である。」と懐疑的な姿勢も示しています。 ・SSIについてはこちら。 ・分散型ID(DID)についてはこちら。 参考 Digitary & Evernym collaborate DIGITARY – SECURELY VERIFYING CREDENTIALS WORLDWIDE Secure Online Access For Learners PRIVACY POLICY https://www.myequals.edu.au/ https://corp.collegenet.com/ https://www.chsi.com.cn/en/ https://www.groningendeclaration.org/ https://www.pesc.org/ Andy Dowling, Chief Executive, Digitary, Ireland
Blockcerts(ブロックサーツ)とは?ブロックチェーン証明書の標準規格とデジタル証明書のDXについて
今回は、ブロックチェーン証明書の世界標準規格「Blockcerts(ブロックサーツ)」とはどのような仕組みになっているのか、開発の背景も含め分かりやすくご説明します。 Blockcertsとは?その概要について Blockcertsは、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究機関Media LabとLearning Machine社が共同開発したブロックチェーン証明書の標準規格です。 BlockcertsのGithubはこちら また、その規格を満たすブロックチェーン証明書を発行するためのSDK(開発ツール)を含んだオープンソースのプラットフォームでもあります。 ブロックチェーン証明書発行にオープンスタンダード規格が必要な理由 ブロックチェーンの基本的な機能を利用すれば、ブロックチェーン証明書を発行することは比較的容易です。しかし、第三者機関が証明書を検証する手間を省き、利便性を増すためには、 その証明書が改ざんされていないか どのようなコードによって発行されたのか どのブロックチェーン公開鍵(ブロックチェーンID)と紐付いているのか といった一連のプロセスが透明化され、誰でもそのシステム自体の挙動を検証できる仕組みが必要です。 これがオープン規格を採用しなければならない理由であり、トラストレスな証明書の検証を実現するファクターになります。実際にBlockcertsのライブラリ・ツール・モバイルアプリはGithubで公開されており、誰でもその中身を検証及び利用可能です。当社も発行システムのコアの部分はBlockcertsを採用しています。 Blockcerts準拠で発行したブロックチェーン証明書のサンプル 実際に、当社CloudCertsから発行されたBlockcerts準拠のブロックチェーン証明書が以下です。「Verify again」をクリックするとブロックチェーンへの検証機能が作動し、証明書の内容が正しいか検証できます。 「ISSUE DATE」= 証明書発行日 「ISSUER」 = 証明書発行者 「Issuer’s public key」= 証明書発行者のIDです。 「Transaction ID」= ブロックチェーンに書き込まれているトランザクションのIDです。 「Download Record in JSON format」= JSONというブロックチェーン証明書の原本ファイルをダウンロードするためのリンクです。 「Verify another Record」= blockcerts規格の他の証明書を検証する画面へ遷移します。 紙の証明書が抱える課題 ブロックチェーン証明書でできることを説明する前に、まず紙の証明書が抱える問題点について言及したいと思います。現在、各種証明書や資格のほとんどはアナログで運用されています。各種証明書の例として、 卒業証明書や学位証明書 学割証 住民票 社員証、学生証 契約書 不動産所有権 などが挙げられます。 特殊なインクと紙を使用する新幹線の学割証は発行手続きの手間がかかり、教育機関、学生側の利便性に改善の余地がある といった事例があります。 これらの本質的な問題は、「その証明書が正しいことを、証明書の発行元に確認しなければならない」という点であり、これは単にPDF等でデジタル化しても解決する問題ではありませんでした。 ブロックチェーン証明書の機能:「証明」のデジタル化 しかし、ブロックチェーン技術の登場により、これらの「証明」にイノベーションが起きました。 ブロックチェーン技術の特徴は、ブロックに記録されたトランザクションを改ざんできない点にあります。この機能によってデータを詐称することが困難になるため、発行元(上記例では教育機関)へ問い合わせることなく、その証明書の内容が正しいことを検証できるようになります。 今までアナログの証明書によって担保していた「任意の事実」をデジタル化し、ブロックチェーンというオープンなネットワークで電磁的記録として扱えるようになったという点において、Blockcertsは画期的な仕組みです。 既にMIT(マサチューセッツ工科大学)、ハーバード大学、バーミンガム大学、バーレーン大学など、世界中の教育機関がBlockcerts準拠の証明書の発行を開始しています。 ブロックチェーン証明書の発行プロセスについて 次に、ブロックチェーン証明書がどのようなプロセスを経て発行されるのか、概要を説明します。①証明書に記載したい受取人の情報をCSVファイル等で作成し、ブロックチェーン証明書発行事業者に送信②発行事業者は事業者ごとの秘密鍵を用いて署名を作成し、受取人の情報を含んだブロックチェーン証明書(jsonファイル)を作成する③②で作成したブロックチェーン証明書をハッシュ化し、Bitcoin・Ethereum等のパブリックチェーンに記録する④②をBlockcertsのアプリで格納し、③で記録したチェーン上のハッシュ値と照合することで証明書の真正性を立証できる⑤アプリの機能で外部への共有も可能。ブロックチェーン証明書(jsonファイル)を受け取った企業も、リンクをクリックするだけで証明書の内容の真正性をチェックできる。(jsonファイルを任意のサーバでホスティングした場合) ブロックチェーン証明書がもたらす未来 このように、ブロックチェーン証明書は紙の証明書をデジタル化し、かつ検証機能をもたせることが可能ですが、もう一歩踏み込んだDXとしての利用法、ビジョンを描くこともできます。 今までクローズドに管理されていた学位や資格を、ブロックチェーン証明書・ブロックチェーン資格証に置き換えることで、スマホでそれらを格納・管理・共有し、社会資本あるいは一種の資産や通貨のように扱うことが可能になります。 「任意の事実」をデジタル化できるため、学位や資格だけでなく、例えば「Youtubeのチャンネル登録者数が1万人以上」「twitterのフォロワーが10万人以上」といったカジュアルな実績もスマホで管理したり、自身のスペックとして外部にアピールしたりするといった、まったく新しい形での社会資本形成が可能になると当社は考えています。
LasTrustインターン手記「僕がアメリカ留学を決めた理由」
LasTrustでインターンをしている阿久津陽介です。 コロラド州立大学の大学院生として、過去連載した「C-Lab」プロジェクトのリサーチと開発を担当しています。連載でも書きましたが、私がアメリカ留学を決めた理由は「C-Lab」のデジタルクレデンシャルの計画に強く興味を惹かれたことがきっかけでした。 今回は留学を決心した背景と、「C-Lab」プロジェクトを通して知った、クレデンシャルに対する海外の捉え方について紹介します。 (C-Labの基本的な情報についてはこちら) ブロックチェーンとの出会い 私自身小学生時代、オーストラリアへのホームステイをきっかけに、将来は海外で働きたいという思いは常に持っていました。 そして社会人経験を少し得た後、夢を実現すべく、カリフォルニアにある大学院に留学しました。 例えば「GDPは、もともとは戦争をなくすためにつくった数字である」ということを、かつて植民地支配下にあった国の人は常識であるかのように知っています。 つまり、かつて先進国は戦争によって植民地を勝ち取ることで、自国が豊かになると考えていた経緯があります。新興国に経済投資すればROIが上がることを示す指標であるということです。このように、ある数字の新たな見方を知ることで、今まで自分が数値に対して抱いていた考え方・在り方の根本を見直さなければならないことに気付かされました。 その他にも、スノーデンの内部告発、ナチスドイツがユダヤ人大虐殺の背後で稼働したIBMのパンチカード式コンピュータなど、「テクノロジーがどうあるべきか」を常に世界史から考えるようなカリキュラムが組まれており、多様性を尊ぶアメリカの文化を感じることができました。 こういった授業の中で、ブロックチェーンもよく上がる議題の一つです。というのもアメリカ国民や政府は近年、巨大テック企業のプラットフォームの権力と不完全さを疑問視しています。大規模な個人情報の漏洩や、検索エンジンのバイアス問題、政治的・宗教的な問題を指摘する報道が相次いだためです。 この流れはEUも同様であり、かつてフランス革命や戦争で多くの犠牲を払ったことから、権利と自由を脅かす可能性を秘めた巨大IT企業に対し、GDPRという法と倫理で規制をかけています。 そして、両者に共通する、「全員をフラットな関係で繋ぎ、歪みのない自由と公平を保つ画期的なシステム」こそがブロックチェーンであり、現在も盛んに社会実装が行われています。 このような社会的背景を学ぶ中で出会ったのが、ラーニングエコノミーのプロジェクト「C-Lab」でした。 「C-Lab」は「知」のベーシックインカム コロラド州はカリフォルニア州に比べて大学進学率が低いことが問題視されており、政府も各教育機関も15年以上試行錯誤を続けていました。さらには、アメリカの移民規制やブレグジットのような政策が追い打ちとなり、今後世界各国で教育格差が広がってしまう懸念があります。 また、日本ではあまり馴染みのない感覚かもしれませんが、学歴社会のアメリカやヨーロッパ、中国では学歴の虚偽が多発しており、企業側の採用担当者は日々頭を悩ませているというのが現状です。 こういった国際的な問題に対して、ブロックチェーンを用いて民間企業をも巻き込んだ壮大な実験を行っていることに魅了され、私はC-Labプロジェクトに足を踏み入れました。 プロジェクトに参加して印象的だったのは、ライバルであるはずの巨大IT企業のエンジニアの方々が、惜しみなく英知を分け合っている場面を数多く目にしたことです。 彼らは、企業や利益に関係なく、インターネットがあらゆる機会を与え、世界中誰にでもコンテンツを届けられるという「自由」で「公平」な社会を本気で実現させようとしています。 「クレデンシャル」に対する捉え方と今後の展望 「C-Lab」でも、分散型アイデンティティやVerifiable Credentialsは最重要な土台を担う考え方である、とされています。これはお話した通り、アメリカ、ヨーロッパの歴史の延長線上にある考え方であるためです。 つまり、時代の潮流としても、今後のあらゆるプロジェクトの根本に「クレデンシャル」は欠かせない概念であると捉えられているのです。 一つ身近な例を挙げると、既にアメリカでは検証可能な卒業証明書の発行が進んでおり、大学院への進学の際も欧米の学位証明があればいくつかの試験の優遇措置があります。一方留学生には、たとえコンピュータサイエンスの学位があったとしても必ず、数学の試験を受けなければなりません。これはもちろんビジネス的な理由もありますが、母国で検証可能な卒業証明書が普及していないために、学位証明が簡単に検証できないことも理由として挙げられます。 こういった現状を受け、すでに中国や東南アジア各国は卒業証明書を検証可能にするプロジェクトが進んでいます。また、アメリカでは、検証可能な卒業証明書を所有する留学生に対し試験の優遇の検討している大学も出てきています。 あまり日本国内にいると馴染みのない話かもしれませんが、こういった世界的な動きや捉え方は今後も拡大していくと思います。 残念ながら現時点ではコロナ禍の影響により、「C-Lab」のプロジェクトの進行は止まってしまっています。 その最中に、「個人の見えざる価値を可視化する」というビジョンを掲げているLasTrustに出会えた事は、偶然とは感じ難いものがありました。というのも「C-Lab」自体、全く同じ哲学を掲げて進行しているプロジェクトだったからです。今後も、LasTrustでは海外のデジタルクレデンシャルの情報発信と開発に携わり、C-Labではプロジェクトの研究支援を続け、世界のクレデンシャルのアップデートに寄与したいと考えています。 日本でも共通した考えのもとに取り組まれている方々がいらっしゃった幸運を生かすべく、アメリカや他プロジェクトで得た知識を惜しみなく共有できたらと思います。
ブロックチェーン証明書(Blockcerts準拠)と Open Badgesの違い
今回は、ブロックチェーン証明書(Blockcertsに準拠)と Open Badgesの違いについてまとめました。 Open Badges とは Open Badgesは、2011年に、特定のスキルの達成度をデジタルおよび視覚的に伝えるために誕生したデジタルバッジ規格です。Open Badgesが開発したデジタルバッジは、デジタル画像とホストされたデータセットを通じて単一の成果を伝えられるように設計されています。最初はMozilla Foundationが主導していたOpen Badges規格が、IMS Global Learning Consortiumによって維持されたことで、プラットフォーム間の相互運用性が確保されています。 このデジタルバッジは、成果の達成が細分化され、より大きな教育的または専門的な目標への新しい道を拓くことを目的としています。 近年、eラーニングやMOOCsなど、携帯やPCで国内外や組織を問わず自由に学ぶ環境が整備されてきています。加えて、時代の変化の速さや労働寿命が伸びることが予想されている今後において、デジタルバッジは細分化されたカリキュラムに応じた資格や修了証をあらゆる場面で共有することを可能にします。 open badgesのデジタルバッジとマイクロクレデンシャル このように、デジタルバッジは小規模なクレデンシャル、つまり「マイクロクレデンシャル」に最適です。マイクロクレデンシャルとは、高いレベルの検証が必要な状況(国境でのパスポートの検証など)には不十分ですが、個人の達成のマイルストーンにおいて効果的に報酬を与えることができ、他の達成と組み合わせることで、最終的に大規模で高額な資格の取得において重要な要素になるとされています。 デジタルマイクロクレデンシャル化により、すべての資格情報などがデジタル化されることを、多くの教育プロバイダーや雇用主が期待していました。しかしながら、デジタルバッジのセキュリティ制限により、適切な使用例の範囲は制限されています。 たとえば、バッジデータとバッジ表示は別々にホストされるため、表示が簡単に改ざんされる可能性があります。加えて受信者は自分のバッジに接続された暗号化キーを制御できない仕組みになっており、実際には技術的な所有権はありません。 このように、Open Badgesによって提供されるセキュリティレベルは、限定的な場面では適しています。そのため、マイクロクレデンシャルは、より大きな成果や学習者のキャリアパスなどの道に沿った、小さなステップを証明してくれるものとして使い分けがされています。 ブロックチェーン証明書とは Blockcertsは、MIT Media Labによるプロジェクトの一環として2015年に開発が始まりました。Blockcertsについてはこちら。 OpenBadgesとの主な違いは、デジタル記録の検証のためのグローバルな公証人として、「ブロックチェーン」の力を活用することでした。 2016年に正式にリリースされたすべてのリファレンスライブラリはMITオープンソースライセンスの下で公開されたため、Blockcertの発行・受信・および検証用の独自のアプリケーションを構築したい人は、コードを自由に使用できます。弊社もBlockcertsに準拠した証明書サービス「CloudCerts」を提供しています。 そして、上述のオープンソースライブラリには、世界中のあらゆる機関が発行したすべてのBlockcertを検証するUniversal Verifierが含まれています。加えて、Blockcertsの公式ホームページにもUniversal Verifierがあり、誰でも使用できます。つまり、Blockcertsにより発行された証明書は世界中の誰でも検証することができるのです。 つまり、Blockcertsに準拠したブロックチェーン証明書は、 改ざん不可能 発行者と受信者の所有権 柔軟なフォームファクタ 検証付きのオンラインおよびオフライン共有 独立した検証 を提供しており、バッジとは根本的に異なるものです。 Open Badges と ブロックチェーン証明書の比較 *Open Badges 2.0標準に準拠している場合、ベンダーに依存しない方法で検証可 OpenBadgesは、個人の達成のマイルストーンに効果的に報酬を与えるため、認定資格などのマイクロクレデンシャルを、LinkedinなどのSNSで共有するなどの活用例があります。 一方で、Blockcertsは高いセキュリティレベルでの検証が可能であることから、MITなどの大学で卒業証明書として発行されるといった事例があります。
スタディログ・ライフログのデジタルトランスフォーメーション「出口戦略」まとめ
今回は、「ラーニングエコノミー」の概念を基にして行われているプロジェクトの一つ、「C-Lab」について、具体的な学習者の「出口戦略」と現時点で議論されている課題をまとめました。 「C-Lab」の概要についてはこちら。 学習者への「出口戦略」 「C-Lab」概要でも触れましたが、「C-Lab」及び「ラーニングエコノミー」が目指している目標がSDGs(持続可能な開発目標)、中でも「質の高い教育をみんなに」と「すべての人間らしい仕事の提供」です。 これらの目標に基づき、実現可能な学習者へのサービスとして、下記のような具体例が挙げられています。 ・改ざん不可能な資格・卒業証明書の提供 ・ユーザーの「学び」の無償化、価値の可視化(アクティブラーニング化) ・コミュニティやボランティア活動参加の促進 ・タイムリーなキャリアアドバイス、及びジョブマッチング ・信用の透明化による融資条件緩和、起業の簡素化、促進 更に、OECDが提唱する「21世紀型スキル」に則り、コミュニケーションスキルやビジネススキルといったソフトスキルを養う場の提供、価値の可視化にも取り組んでいます。 この取り組みは、欧州や北米での難民・移民問題に対して、再定住に不可欠な言語や就労のためのスキルを学ぶ機会を提供するとされています。 つまり学習者は、学生や労働者だけでなく、本来生活のための最低限の教育を必要とする難民にまで幅広く想定されているのです。 学習者に提供できるサービスの精度は、人工知能の精度、つまりデータ量に依存するため、幅広い学習者・過去のデータを大量に保有する世界中の様々な企業がデータ提供をすることで、学習者にとって非常にメリットの大きいプロジェクトになります。 「C-Lab」の課題 参加者を募る際の障壁として「経済的合理性」が挙げられています。 つまり、学習者の「学びのデータ」に対しての価値が、出資をする企業や団体に対して十分に明らかではないということです。 この問題を解決するために、以下の取り組みが行われています。 ・多様な評価軸を実現するためのアルゴリズムの透明化 ・コンテンツの透明化、標準化 例えば、人の信用によってスコアを測る「胡麻信用」は既に中国で実装されているものの、具体的なアルゴリズムが公表されておらず透明性に欠けています。 ユーザーにアクティブラーニングを促すためには、ラーニングエコノミーによって可視化したユーザーの学びの価値に根拠を与える必要があるとされています。 また、コンソーシアムに参加している教育機関のコンテンツ、ユーザーの成績や成果についても、透明化させる必要があるとされています。 つまり、出資している企業に対して、採用した人材のスキル不足などによるミスマッチを極限まで防ぐような、高い精度を提供可能であるということを証明しなくてはならなりません。 「C-Lab」は教育格差の是正になるか 上記の課題以外に、教育格差問題の根本の是正にはならないという意見があります。 具体的には、習得が難しいスキルに価値が集中してしまうのではないか、大量の時間と家庭の環境に依存してしまうのではないか、といった懸念も挙げられています。 現時点でも議論されている問題ですが、SDGsの持続可能な開発目標を掲げ、国際的に参加者を募っていくことを考えると、利害関係者すべてを納得させるためのさらなるシステムの開発が必要です。 参考 OECD Global Blockchain Policy Forum 2020 Engineering the Benefits of Learning in the New Learning Economy