今回はVerifiable Credentialsについて、より理解を深めることを目的に解説していきます。
Verifiable Credentials の基本的な情報についてはこちら。
Verifiable Credentials(VCs)は、言葉通り解釈すると「検証可能な認証情報(クレデンシャル情報)」というように理解されてしまいますが、これは間違いです。
正確にはクレデンシャル情報を格納する「箱」であり、Digital Trust Ventures のTimonthy Ruff氏も「VCsとはコンテナのようなものである」と提唱しています。
では、次項からこの解釈についてより詳細に解説していきます。
VCsとは「コンテナ」のようなものである
まず、VCsは情報そのものを指すものではなく、その情報を格納する入れ物つまりコンテナであり、検証されるのは「その入れ物の真正性」になります。
また、VCsが検証可能なコンテナのようなものであるならば、「検証可能なデータ伝達方法」と言い換えることもできます。
VCsは任意の種類のデータ(ID、資格情報、卒業証書など)を格納することができ、このデータをパッキングする主体を「発行者」(issuer)と呼びます。また「検証者」(verifier)と呼ばれるVCコンテナの受信者は、そのペイロード(またはその部分集合のプルーフ)を解凍して検証します。
発行者と検証者の間には、通常標準化されたSSIデジタルウォレットでVCを運ぶ人為的作業が発生しますが、VCsは他の方法で転送したり、リレーショナルデータベースまたは分散型台帳に保存したりすることもできます。
つまり、
- 自身でデータを管理するためのSSIデジタルウォレットを用意し、P2P(ピアツーピア)で他者、組織、または物との接続を許可する。
- 主体からVCsを受け取り、ウォレット上で保有した場合は保有者(holder)と呼ばれ、逆にVCsを提供した主体は上記のように発行者(issuer)と呼ばれる。
というのが一連の流れです。
また、このVCsのデータ全てではなく、一部を共有することもできます。(SSI※)
さらに、VCsを保有していることの証明や、複数のVCをまとめた複合証明の共有も可能です。
※SSIについてはこちら。
他方で、検証者は共有されたものが
- 「誰(または何)によって発行されたのか」
- 「誰に対して発行したのか」
- 「発行からの改ざんの有無」
- 「発行者主体による取り消しの有無」
を検証することができます。
重要な点は、「データが検証可能である」という点に関して真正性があるのではなく、その入れ物(コンテナ)であるVCsが検証可能であるということです。
Blockcertsを例に取ると、誰(大学など教育機関)がコンテナ(VCs)に卒業証明書情報を梱包したのかという「VCsの出所」を確認することはできますが、格納されたデータそのものの真正性を検証できるものではありません。
よって、大学側が卒業生ではない誰かに卒業証明書を偽造して発行するといったことは可能であり、学歴詐称を根本的に防げるようなものではありません。
つまり「VCsとは検証可能なコンテナである」という文章は、データを運ぶ入れ物として信憑度が高く、高速伝搬可能であるという点を表現しており、VCsが既存の情報伝達の過程に関する課題解決に貢献するものであるということを示しています。
既存の証明書発行技術は逐一発行者に連絡し、発行を依頼するというプロセスが発生します。ですが、VCsにより検証者は元の発行者に連絡することなく、上記に示した4つを即座に検証することができるのです。
Verifiable Credentials がもたらす広大な可能性
加えて、VCを貨物用コンテナに例える理由は、「検証可能なデータ伝達方法」であるという側面だけでなく、貨物用コンテナのようにVC規格の標準化が進むことで、「信頼のおける情報の取引コストが劇的に効率化」するという意味も含まれているからです。
Timonthy Ruff氏は、実際に「コンテナ規格の標準化」(ISO)を導入し、様々な業界の主体をISOに準拠させたことで、世界貿易の取引コストを劇的に効率化したことを例に挙げ、VCs標準化の可能性を示しています。
具体的な課題を挙げると、
- ユーザー名とパスワードの複数保持
- 面倒なフォームとオンボーディングのプロセス
- サービスセンターに電話する際の、口頭での認証、転送の再認証
- 契約署名の有無、同意への待機時間
- あらゆる種類の申請が承認されるまでの待機時間
- あらゆる種類の文書、記録のタイムラグ
- 検証に依存する、多くの遅くて面倒なプロセス
これらすべてを解決した際の経済効果はかなり大きく、ユーザーエクスペリエンスも素晴らしいものになるでしょう。特に、プロセスとワークフローは、簡素化・自動化・高速化でき、ほぼシームレスなエクスペリエンスを提供できます。
いくつかの課題はあるものの、VCで何が実現できるのかを探索し、実証し、広く社会認知させていくことの必要性は非常に高いと考えられます。
弊社は今後とも業界を越えたコラボレーションを実現し、VCsの標準化に寄与してまいります。