今回はブロックチェーンを活用した信用スコアリングのプロジェクトの一つ、『COLENDI』についてまとめました。
COLENDI とは
『COLENDI』は、2016年2月にスイスのツーク州で設立されましたが、2019年2月に開発拠点の1つであるトルコでプロダクトをローンチした為に、現在トルコと中国が開発拠点となっています。
COLENDIは「世界中のすべての人にフィナンシャルスコアとアイデンティティを与え、彼らに安心と安全を保証する」をビジョンに掲げ、マイクロクレジットや信用スコアリングのプラットフォームとしてプロジェクトを進めています。
プロダクトの特徴として、ブロックチェーンを利用していることが挙げられます。顧客のデータを保護しながら、開発された信用スコアリングを基にユーザーに自己主権とデジタルIDを提供しています。
信用スコアリングの問題点
既存の信用スコアリング、及びその際に使用される個人情報の管理については、
- 特定の組織が中央集権的に管理(例:マイナンバー制度)
- スコアリングアルゴリズムの違い
- 特定の地域や国の中でのみ有効な証明
といった課題が存在します。以下、各項目ごとに詳しく説明します。
1.中央集権的な管理の場合、サイバー攻撃などによる情報漏洩のリスクがあります。
例えば、2017年に信用情報管理事業において米国最大手のEquifaxがサイバー攻撃を受け、国民の半数以上に及ぶ1億5千万人の信用情報のデータが漏洩しました。
このように、特定の機関へ情報管理を委託することは、プライバシー保護が十分に行き届いてないことを意味します。
2. 消費者の信用スコアリングについても、Equifaxや芝麻信用※のような信用情報機関が、どういったプロセスで格付けや債券のスコアリングを行っているかが不透明な部分が多いと言われています。
また、企業毎に、提供する信用スコアのアルゴリズムは異なっており、性別の変更のみでスコアに差異が出るような信用スコアが存在していることも課題です。
※芝麻信用:中国モバイル決済においてトップシェアにある『Alipay(アリペイ)』のアプリに搭載されている機能の一つ
3. 世界銀行の統計データによると、世界には銀行口座を持っていない人々が約20億人存在すると言われています。よって、クレジットカード作成も不可能であり、自らの信用情報を証明することが困難であるため、ローンなどの様々な金融機会にアクセスすることができません。
また、現在の発展途上国において、ローンを受けている人は全体の10%にも満たないという現状があります。
これは金融業者が借り手を評価することが困難であることが原因であり、高利子貸付などの違法なマーケットの拡大につながってしまいます。
分散信用スコアリングとは
上記の課題を解決するべく開発されたのが、分散信用スコアリングです。
分散信用スコアリング(decentralized credit scoring)は既存のスコアリングと異なり、分散的に個人情報を取得・管理し、算出する信用スコアリング技術です。
つまり、企業にデータを預けずに、ブロックチェーン上で個人情報を管理するため、データ流出・漏洩のリスクを回避することができます。
また、銀行口座やクレジットカードを持たない人でも、債務履歴や返済率を元に信用情報を獲得可能であり、既存の金融機関にアクセスできない人々に資金調達の機会を提供できます。
さらに、オープンソースコード上のスマートコントラクトを見れば格付けプロセスを把握することができるため、透明性を保証できます。
Colendiは、この分散型スコアリングの機能を持つプロダクトを提供しており、取引履歴やスマートフォン、ソーシャルメディアなどから収集された情報により信用スコアを算出します。
信用スコアの指標とデータ取得方法
COLENDIの信用スコアでは、1000以上の指標を元にしています。
主な例として下記が挙げられます。
- Smartphone data(スマートフォンデータ)
- Social media data(ソーシャルメディアのデータ)
- Transaction data(取引データ)
- Blockchain credit history data(ブロックチェーン上のクレジットヒストリーデータ)
- Personal data(パーソナルデータ)
更に通信の決済履歴や購買データも指標に入れるため、通信会社や大手のリテールチェーンといった企業とのパートナーシップを進めています。
また、算出する信用スコアに、機械学習を活用したアルゴリズムを使用しており、特許取得済となっています。
COLENDIでは、データ提供の対価として独自のトークンを支払います。これにより、トークンによって自律的にインセンティブ設計を行うシステムの構築を実現しています。
また、ブロックチェーンを利用することで、データの編集や閲覧が不可能なシステムを構築し、ハッシュ化されたデータの署名をチェーンに記録し、改ざん不可能な形式で保存することができます。
enigmaとCOLENDIとのパートナーシップ
ユーザーのプライバシーの強化のため、COLENDIはenigmaとパートナーシップを結んでいます。
ブロックチェーン上に格納されているデータは世界中の人々が参照できるため、ユーザーの個人情報をノードが閲覧できないようにする必要があります。
enigmaはトランザクションデータを分散的に秘匿化する技術を持っています。具体的には、イーサリアム(Ethereum)ブロックチェーンのスマートコントラクトを用いつつ、ユーザーがCOLENDIのアプリケーションにログインすると、自分のIDのみがネットワーク上の他のユーザーと共有され、データ全体を非公開にすることができます。
そして、IDパラメータへのアクセスは、ユーザー所有のスマートフォンと、登録時にユーザーに与えられた秘密鍵によってのみ可能となります。
COLENDIと分散型信用スコアリングの将来性
デジタル社会では、個人を取り巻くデータが増え続けるのと同時に、常にデータ漏洩の危険が存在しています。よって、保護されたデータを使用して自身の信用度をスコアリングできるサービスは、今後さらにニーズが増加していくと考えられます。
加えて、個人情報を提供せずとも、分散信用スコアリングによって得た評価により、サービスを受けることも可能になります。つまりユーザーや企業が、個人情報を保護するセキュリティに膨大な労力と費用を費やす必要がなくなるのです。
また、2019年6月に発表された、送金コストのWorld Bankの報告によると、世界の送金平均コストは6.84%でした。一方、南アフリカをはじめとした、低所得国や中所得国からの送金コストは、依然として20%をやや上回っています。
そこで、COLENDIは、上記に述べた銀行口座の問題に加え、国境を越えた支払いコストの節約を目標に掲げています。マッキンゼーの調査レポートによると、COLENDI他、リップルやリブラアソシエーションが取り組んでいる、ブロックチェーンプロジェクトの効果は年間最大40億ドルの節約に値するとしています。
このように、世界的にボーダレスな分散型信用スコアは、今後さらに「国」という枠を超えてビジネス及び生活に浸透していくと考えられます。