今回は、ブロックチェーン証明書の世界標準規格「Blockcerts(ブロックサーツ)」とはどのような仕組みになっているのか、開発の背景も含め分かりやすくご説明します。
Blockcertsとは?その概要について
Blockcertsは、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究機関Media LabとLearning Machine社が共同開発したブロックチェーン証明書の標準規格です。
BlockcertsのGithubはこちら
また、その規格を満たすブロックチェーン証明書を発行するためのSDK(開発ツール)を含んだオープンソースのプラットフォームでもあります。
ブロックチェーン証明書発行にオープンスタンダード規格が必要な理由
ブロックチェーンの基本的な機能を利用すれば、ブロックチェーン証明書を発行することは比較的容易です。しかし、第三者機関が証明書を検証する手間を省き、利便性を増すためには、
- その証明書が改ざんされていないか
- どのようなコードによって発行されたのか
- どのブロックチェーン公開鍵(ブロックチェーンID)と紐付いているのか
といった一連のプロセスが透明化され、誰でもそのシステム自体の挙動を検証できる仕組みが必要です。
これがオープン規格を採用しなければならない理由であり、トラストレスな証明書の検証を実現するファクターになります。
実際にBlockcertsのライブラリ・ツール・モバイルアプリはGithubで公開されており、誰でもその中身を検証及び利用可能です。
当社も発行システムのコアの部分はBlockcertsを採用しています。
Blockcerts準拠で発行したブロックチェーン証明書のサンプル
実際に、当社CloudCertsから発行されたBlockcerts準拠のブロックチェーン証明書が以下です。「Verify again」をクリックするとブロックチェーンへの検証機能が作動し、証明書の内容が正しいか検証できます。
- 「ISSUE DATE」= 証明書発行日
- 「ISSUER」 = 証明書発行者
- 「Issuer’s public key」= 証明書発行者のIDです。
- 「Transaction ID」= ブロックチェーンに書き込まれているトランザクションのIDです。
- 「Download Record in JSON format」= JSONというブロックチェーン証明書の原本ファイルをダウンロードするためのリンクです。
- 「Verify another Record」= blockcerts規格の他の証明書を検証する画面へ遷移します。
紙の証明書が抱える課題
ブロックチェーン証明書でできることを説明する前に、まず紙の証明書が抱える問題点について言及したいと思います。
現在、各種証明書や資格のほとんどはアナログで運用されています。各種証明書の例として、
- 卒業証明書や学位証明書
- 学割証
- 住民票
- 社員証、学生証
- 契約書
- 不動産所有権
などが挙げられます。
- 人材が海外に進出し、現地の企業や教育機関から英文の卒業証明書を求められた場合、これを海外から出身大学に連絡をして取り寄せる際に膨大な手間と時間を要する(そのため最近ではデジタル証明書の発行はできないか?という問い合わせも増加している)
- 特殊なインクと紙を使用する新幹線の学割証は発行手続きの手間がかかり、教育機関、学生側の利便性に改善の余地がある
といった事例があります。
これらの本質的な問題は、「その証明書が正しいことを、証明書の発行元に確認しなければならない」という点であり、これは単にPDF等でデジタル化しても解決する問題ではありませんでした。
ブロックチェーン証明書の機能:「証明」のデジタル化
しかし、ブロックチェーン技術の登場により、これらの「証明」にイノベーションが起きました。
ブロックチェーン技術の特徴は、ブロックに記録されたトランザクションを改ざんできない点にあります。この機能によってデータを詐称することが困難になるため、発行元(上記例では教育機関)へ問い合わせることなく、その証明書の内容が正しいことを検証できるようになります。
今までアナログの証明書によって担保していた「任意の事実」をデジタル化し、ブロックチェーンというオープンなネットワークで電磁的記録として扱えるようになったという点において、Blockcertsは画期的な仕組みです。
既にMIT(マサチューセッツ工科大学)、ハーバード大学、バーミンガム大学、バーレーン大学など、世界中の教育機関がBlockcerts準拠の証明書の発行を開始しています。
ブロックチェーン証明書の発行プロセスについて
次に、ブロックチェーン証明書がどのようなプロセスを経て発行されるのか、概要を説明します。
①証明書に記載したい受取人の情報をCSVファイル等で作成し、ブロックチェーン証明書発行事業者に送信
②発行事業者は事業者ごとの秘密鍵を用いて署名を作成し、受取人の情報を含んだブロックチェーン証明書(jsonファイル)を作成する
③②で作成したブロックチェーン証明書をハッシュ化し、Bitcoin・Ethereum等のパブリックチェーンに記録する
④②をBlockcertsのアプリで格納し、③で記録したチェーン上のハッシュ値と照合することで証明書の真正性を立証できる
⑤アプリの機能で外部への共有も可能。ブロックチェーン証明書(jsonファイル)を受け取った企業も、リンクをクリックするだけで証明書の内容の真正性をチェックできる。(jsonファイルを任意のサーバでホスティングした場合)
ブロックチェーン証明書がもたらす未来
このように、ブロックチェーン証明書は紙の証明書をデジタル化し、かつ検証機能をもたせることが可能ですが、もう一歩踏み込んだDXとしての利用法、ビジョンを描くこともできます。
今までクローズドに管理されていた学位や資格を、ブロックチェーン証明書・ブロックチェーン資格証に置き換えることで、スマホでそれらを格納・管理・共有し、社会資本あるいは一種の資産や通貨のように扱うことが可能になります。
「任意の事実」をデジタル化できるため、学位や資格だけでなく、例えば「Youtubeのチャンネル登録者数が1万人以上」「twitterのフォロワーが10万人以上」といったカジュアルな実績もスマホで管理したり、自身のスペックとして外部にアピールしたりするといった、まったく新しい形での社会資本形成が可能になると当社は考えています。