今回は、分散型クレデンシャルの課題として挙げられる「ログのデータ集積がユーザーへの信用に繋がるか」、「C-Lab」プロジェクトの具体的なスケジュール・予算についてまとめました。
C-Labの今後のスケジュールと予算
分散型クレデンシャルの「キャズム」問題に触れる前に、アメリカの先行事例「C-Lab」の進捗状況と今後のスケジュールについてまとめます。
「C-Lab」は、2020年1月に行われたプロジェクトのキックオフミーティングで具体的な予算とスケジュールを発表しました。
2020年7月時点ではフェーズ2に移っており、既にコロラド州の3つの高等学校と3企業を対象とした実証実験が始まっています。
フェーズが進むにつれて、参加企業や学習者の規模が大きくなり、機械学習によるデータ運用が行われ、学びのアドバイスやキャリアアドバイスを受けることができます。
参加団体や企業については前回記事でまとめましたが、フェーズ4の段階で100以上の教育機関や企業が実証実験の対象となります。
2023年にコロラド州での実証実験を終えた後、国連主導の下「21世紀の新しい教育プラットフォーム」として様々な国や地域への定着を図り、2030年のSDGs目標達成を目指しています。
「C-Lab」発足当時の予算は3年間で約8.5億円とされていましたが、発足直後に非営利団体の更なる支援により、約12億円に引き上げられています。
現在も予算を上回る支援金による援助を受けており、計画の前倒しや更なるプロジェクトの拡大も考えられています。
ログのデータ集積がユーザーの信用に繋がるか
分散型クレデンシャルのエコシステムである「C-Lab」プロジェクトがなぜここまでの速さで展開しているか、疑問に思うかもしれません。
そこで日本でもよく取り上げられる「ユーザーの学習履歴やボランティア等のデータ集積で、ユーザー自身の信頼度を測れるか」という議題について、「C-Lab」のプロジェクトキックオフ前の議論の内容から紐解いてみます。
この議題に関して主に2つの観点から議論が行われました。
・アルゴリズムのバイアス問題
・企業に向けたユーザーの信用の測定
アルゴリズムバイアス問題
まず、アルゴリズムのバイアスに関してですが、「C-Lab」では国連主導の下に行われている実証実験ということもあり、ユーザーの評価軸は透明かつ具体的である必要があります。
例えば、既存の信用スコアサービスを提供する企業のアルゴリズムにはバイアスが存在していることが指摘されています。具体的には、登録情報の性別を変更するだけで点数の上下があったことが指摘されており、提供側が修正するという事例が多くあります。
世界的に見ても、アルゴリズムバイアスが存在すると指摘される金融サービスは非常に多いため、スタディログの集積及びユーザーの「学び」を資産化する際には、アルゴリズムがフェアであることに重点が置かれています。
具体的には、EUのGDPR(一般データ保護規則)22条「データ主体に対して法的効果(または同様の重大な影響)を及ぼす場合の、完全な機械化、自動化されたプロファイリングのみによる決定の禁止」や、アメリカで制定されたECOA(信用機会均等法)「性別、年齢や既婚・未婚といった婚姻状況、人種や肌の色、宗教、出身国といった社会的帰属によるいかなる差別の禁止」に準じた形で開発を進めています。
ユーザーの信用の測定
次に企業に向けたユーザーの信用の測定についてです。より良い教育インフラシステムを成立させるためには、出資者である参加企業の採用コストを減らし、適切な人材とのマッチングを可能にすることが必要です。
その為には、出資して得たユーザーのデータが、既存の仕組みから得たデータよりも信用足りうることを保証しなくてはなりません。
しかしながらこの問題は、先駆けてオープンプロジェクトとして取り組んでいる「T3 innovation Network」が既に効果測定済みであったことから解消されつつあります。
既存の採用の仕組みでは、スキルと経験の価値は伝える人の能力に依存していました。しかし、「T3 innovation Network」はAIやブロックチェーンを駆使し、400以上の企業や教育機関のデータをあらゆる業界の雇用主が理解できるように提供しています。これにより、参加企業の大幅な採用コストカット・ミスマッチの減少にも成功しており、さらに米国各州政府が官民標準協働(SC)に積極的に関与していったことで大規模なプロジェクトに発展しました。
「T3 innovation Network」が「C-Lab」に参加し、SSI規格とテクノロジーの技術的な詳細を提供することで、データへの信用性の担保は確実になったといえます。(2020年6月公開のホワイトペーパーより)